2015年7月6日月曜日

ギリシャ:反対票のみごとな勝利

反対票のみごとな勝利


エリック・トゥサン
ギリシャ公的債務真実委員会の科学コーディネーター
CADTM[第三世界債務帳消し委員会]国際ネットワーク代表世話人


「反対」票のすばらしい歴史的な勝利は、ギリシャの市民が債権者からの恐喝を受け入れるのを再び拒否したことを示すものだ。ギリシャ議会が創設した公的債務真実委員会の予備的報告が示したように、不法であくどく正統性のない債務に対し、国家が一方的に支払いを猶予したり、拒絶したりすることを認める法的論拠が存在している。


 ギリシャのケースでは、こうした一方的行為は以下のような論拠に基づいている。


●国内法や、人権に関する国際的義務を違反するようギリシャに強制した債権者側の背信


●前政権が債権者やトロイカ(EU、欧州中央銀行、IMF)との間で調印したしたような協定に対する人権の優越


●その抑圧性


●ギリシャの主権や憲法を無法にも侵害する不公正な用語


●そして最後に、故意に財政的主権に損害を与え、あくどく不法で正当性のない債務を引き受けさせ、経済的自己決定権と基本的人権を侵害する債権者の不法行為に対して国家が対抗措置を取る、国際法で認められた権利


返済不可能な債務について言えば、すべての国家は例外的な状況において、重大で差し迫った危機に脅かされる基本的利害を守るために必要な措置に訴える権限を、法的に有しているのである。


こうした状況の中で、国家は未払い債務契約のような危険を増大させる国際的義務の履行を免除されうる。最後に諸国家は、不正な行為に関与せず、したがって責任を負わない場合には、自らの債務の支払いが持続不可能な時に一方的に破産を宣告する権利を持つのだ。


CADTM@facebook


その他、日本語の資料としてはalterglobe.netのギリシャ関連情報など参照
 

2014年5月15日木曜日

Debtばい! 第七号(web版)


もくじ

◎ トロイカ・ウォッチ(ニュースレターNO.1)

◎ アイルランド復興は欧州流のたわ言

◎ アイルランド“救済”675億ユーロの救済融資、895億ユーロが銀行へ



2014年5月発行



【でっとばい7号】トロイカ・ウォッチ(ニュースレターNO.1)

【訳者より】 欧州債務危機におけるトロイカとはIMF(国際通貨基金)、ECB(欧州中央銀行)、EU(特に欧州委員会)です。世界規模でいうトロイカ(IMF、世界銀行、WTO)とやってることは同じ。借金をカタに構造調整(緊縮財政による社会セクター破壊と公営企業の民営化を押し付けるが、その中で多国籍企業には最大限の便宜が図られる)を債務国に押し付けること。ATTACやCADTMも参加して、この欧州のトロイカの動きを監視するニュースレターができましたので、その第一号の翻訳をお送りします。原文では自己紹介が最後に来ていますが、読者の理解の一助となるかも、とこの翻訳ではその部分を頭に持ってきています。


原文 

私たちの正体とこのニュースレターの目的

 これはトロイカ・ウォッチのニュースレター第一号。このNLではこれから、トロイカに関する最新ニュース、影響を受けてる国の状況、反対意見や抵抗アクションの様子などをお届けしていきます。このニュースレターが闘う人たちの連帯と、緊縮政策への抵抗の強化に貢献できることを願っています。
 このニュースの編集グループのメンバーは、欧州社会フォーラム(European Social forum)、フィレンツツェ10+10(Firenze 10+10)、オルタサミット(Altersummit)、EU・イン・クライシス(EU in crisis)、ブロッキュパイ(Blockupy)といった集会で知り合った面々です。
 ブレトンウッズ・プロジェクト(Bretton Woods Project)、CEO、CADTM、TNIといった進歩的なNGOのメンバーやAttac 、ICANといったネットワークの活動家もいます。
 今後、月一、あるいは二回、英語、フランス語、ドイツ語、ギリシャ語、イタリア語、ポルトガル語、スロベニア語、スペイン語でニュースを発行する予定です。購読はwww.troikawatch.net/lists から、連絡は info@troikawatch.net にお願いします。
 それでは!アムステルダム、アテネ、ベルリン、ブリュッセル、フランクフルト、コペンハーゲン、リスボン、リュブリャナ、ロンドン、バルセロナ、セサロニキからのご挨拶でした!
トロイカ・ウォッチ・チーム

全体状況

 通常、年末はどこの国でも国会で次年度予算の審議採決が行われる時期です。ここ数年と変わらず、今年も多くの国で社会予算の大幅カットと民営化が予定されています。金融市場が喜びそうなニュースや、逆に金融市場でなにかうまくいってるというニュースも散見されますが、庶民への緊縮政策は今後も続行です。そしてこれは偶然ではなさそうです。
 ちょうどこのニュースが世に出るころ、アイルランドはトロイカの策定したプログラムからの卒業生第一号になっているでしょう。不幸なことに、一般の人々にとってこれは大した意味はありません。緊縮政策は引き続き行われるからです。アイルランドに倣おうとしているスペインやポルトガルの市民も、同じ目に遭うでしょう。緊縮によって危機から脱出できると信じている国が陥るのは、終わることなき永遠の緊縮政策です。
 目下のところ、トロイカが更なる緊縮を押し付けようとする一方で、各国政府は「これから明るい発展が待ってるよ~」と未来を粉飾しようとしてる(今の政策が続く限りそんな日が来るわけないのに)といった状況です。トロイカも各国政府も、本当に必要なことについては話し合おうとはしません。それは多くの国の債務を大幅に帳消しし(公的債務だけでなく、民間部門が抱える債務も)、公共サービスを復活させ、現在私たちが直面している、気候変動やエネルギー枯渇といった難問の対策に多額の資金投資を振り向けることです。
 トロイカの支配下に置かれた国々の状況をレポートすることで、いつかこの流れを変える運動が大きく育つ一助となれば幸いです。

ギリシャ

 トロイカがレビューのための使節団をギリシャに送っていた11月、次年(2014年)度予算見通しに関して大論争が起きました。トロイカが、次年度の赤字は政府見積もりを軽く10億ユーロは超えるという試算を出したのです。論争が続いている間に、ギリシャ議会はトロイカの承認抜きで予算案を可決しました。
 トロイカは、今後6ヶ月間はギリシャで政治危機を起こしたくない、そのためにすべての重要な決定を先延ばししようと、「特定経済政策条件に関する覚書」を使って圧力をかけようとしているようです。万一政治危機が起これば、かろうじて議会で多数派を保っている政府の力が失墜し、総選挙になる可能性があるからです。
 このような事態は、政治的に微妙な時期(欧州議会選挙)のEU議長国としての業務進行(ギリシャは6ヶ月間EU議長国を務める)に大きな支障となりえます。様々なイチャモンと、次期救済融資の実施に関する再交渉を来年(2014年)初めに延ばすと脅した後で、トロイカはやっと静かになり、12月10日を使節団をアテネに戻しました。
 更なる遅れと赤字は債務状況をますます悪化させます。なぜならこれらの問題の対策として、ギリシャは金融市場からの短期信用を増やすという形で資金を得るしかないのですが、その金利はトロイカからの救済融資の金利よりずっと高いのです。トロイカが要求する更なる政府支出削減によっても、ギリシャ政府がやっているような粉飾決算によっても、この国が危機から脱出することは不可能です。
 たとえトロイカが要求する更なる支出削減がなくても、来年(2014年)もまた多くのギリシャ人にとって大変な年となるでしょう。今年(2013年)末で、抵当に入っている民家の差し押さえ禁止令が失効しますが、この禁止令を更新するのか、するとしたらどのような形でするかでトロイカとの間に論争があります。
 失業率は政府発表で27%ですが、さらに多くのレイオフが予定されています。トロイカの要求を全部満たすために、ギリシャは来年(2014年)、さらに1万4千人の公務員をクビにすることに合意しています。
 多くの首切りが起こる大学や保健セクター、省庁でストライキが行われ、学校閉鎖で職を失う教師たちが抗議行動を繰り広げています。また、労働組合や学生たちによる抗議デモが11月のトロイカ訪問中、議会の予算決議前に起こりました。
 今年(2013年)のギリシャの冬は燃料費高騰で始まり、多くの人を悩ませています。北ギリシャでは燃料費が出せないために学校閉鎖が起こっています。多くの人が料金を払えず電気を止められ、木を燃やして家を暖めています。
 ここ数週間で、少なくとも3人が一酸化炭素中毒、または火事によるやけどで死亡しました。電気料金は2007年から59%上がりましたが、ギリシャのもっとも貧しい10%の人々の2012年の収入は2009年の半分以下でした。多くの都市で、市民不服従の一環として連帯委員会の人々が電気シェアリングを組織しています。

アイルランド

 この12月、アイルランドはトロイカとの合意から卒業する最初の国となります。それもこれ以上の予備的融資や保証なしで-これらはこれまで、救済合意から離陸する際には必須と思われていました。アイルランド政府は「自分たちは外からの援助なしでやっていける」というシグナルを大胆に発信する道を選びました。しかしこれは実態というより市場向けパフォーマンス。アイルランドはこれからも、トロイカ三組織からの改革要求をどれだけ実施したか、その“進捗”程度を6ヶ月ごとに審査される立場にあります(トロイカ合意の下では3ヶ月ごとに審査)。
 トロイカと政府は、市場復帰を果たすためのサクセスストーリー捏造に血道を上げていますが、市民生活の実情はサクセスからは程遠いものです。トロイカは、保健分野での支出削減が目標に達しなかったと政府を非難しています(削減目標6億ユーロ、実績は2億ユーロ)。
 2014年予算で、政府はさらに25億ユーロの赤字削減を計画していますが、保健分野は大幅切り捨てターゲットのひとつです。たとえば、アイルランドのメディカル・カード・システム(保持者は無料で治療が受けられる)の見直し-対象者削減-が計画されています。さらに、今は三日以上病欠で出ている手当てが、六日以上に延長されようとしています。
 危機勃発以来、失業者数はほぼ3倍、10万7千人から2 9万6千人へと増えました。公的債務は2010年のGDP比91%が2013年には121%へと増加しています。家計債務はGDPの200%、一方、借金の元となった住宅の資産価値は危機前の半分に下落しています。

ポルトガル

 アイルランド同様、ポルトガルも金融市場への復活を目指しています。そのために政府は喜んで高い代償を払おうとしています。12月はじめ、2014年と2015年満期の債務返済を三年間繰り延べすることを決定しました。このための追加支出は今後二年間で2億9千万ユーロに上ります。
 2014年度予算の政府支出削減は39億ユーロに上ります。これはポルトガルのGDPの2.3%に相当します。公務員の給与削減は2.5%(月給675ユーロ以上の者)から10%(月給2千ユーロ以上の者)に及ぶ一方、労働時間は週35時間から40時間へと増えています。
 さらに政府は月600ユーロ以上の年金を10%削減しようとしていますが、これはまだ憲法裁判所の承認待ちです。以前、憲法裁判所が同様の政策を違憲と判定したことがあったからです。庶民を苦しめるこれらの削減策の傍ら、企業は法人税削減の恩恵を政府から受けています。
 12月初め、ポルトガルは収益性のある公営企業である郵便事業の株の70%を市場公開しました。水道事業や国有鉄道TAPの民営化も企画されています。
 トロイカと政府の間では最低賃金と賃上げ交渉についての議論が進んでいます。トロイカは最低賃金の引き下げと、労働市場の更なる自由化を要求していますが、これはポルトガルの雇用主でさえ、国内需要がこれ以上冷え込むのを警戒して拒絶しているものです。政府は「トンネルの向こうに光が見えている」と言いますが、今年(2013年)9月の最新の統計ではポルトガルの国内需要は1.5%、投資は3.3%、消費は1.2%、それぞれ前年度の同時期に比べてダウンしています。
 予算決議の際には、政府の退陣を要求する大規模なデモが国会議事堂前で行われました。その一週間前には、警官が削減政策反対のデモを行い、郵政労働者が民営化反対のストライキを行っています。

キプロス

 トロイカから次の救済融資分を実施してもらうために、キプロス政府は国営企業の民営化計画を立てなければなりませんでした。それによって14億ユーロを捻出する予定です。この計画では、通信事業、電気事業、港湾事業が2016年6月末までに民営化されます。労働組合はこの計画に反対し、抗議行動を行っています。12月14日(2013年)には大規模集会が予定されています。

スペイン

 新しい「ツー・パック」規制(EU各国は議会での審議に先立って、欧州委員会から予算案を“承認”してもらわなくてはならない)(2013年5月30日発効:訳注)に基づく警告にもかかわらず、スペインは「EUの融資パッケージの条件であった改革はすべて完了したし、国内の銀行制度は著しく“改善”したので、残りの緊急融資は(入手可能であるにもかかわらず)受けなくてもいい」と主張しています。アイルランド同様、祝福すべき“卒業生”として、スペインは、EUからの緊急融資の75% (一兆ユーロ・パッケージのうちの410億ユーロ)が返済できるまで、6ヶ月ごとに、要求された改革の進捗程度をモニターされることになります。
 債務返済を市民の権利に優先してもいいという憲法修正(トロイカの後押しで、市民とのコンサルテーションなしに決定)の後、政府は公共セクターの民営化と基本的な市民サービス(教育、保健医療、社会サービス)の予算削減に着手しました。退職年齢は繰り上げられ、生活条件は悪化し、年金は凍結され、労働者の権利は低下させられています。
 スペインでは大規模な緊縮反対デモがここ数年行われており、市民社会はさまざまなアクションを組織してきました。
 たとえば、効果的に行われた住居からの追い出し阻止行動、債務監査、保健・教育分野での労働闘争、緊縮への大衆抗議と腐敗に対する法廷闘争です。それへの対抗として、政府は抗議行動を違法化する新法導入を計画しています(60万ユーロ以下の罰金刑)。

イタリア

 スペイン同様、イタリアも新しいツー・パック規制(欧州委員会が国家予算案を事前調査・分析する権利を持つ)により、予算案を練り直すよう欧州委員会から圧力を受けています。欧州委員会のレーン委員は、現在対GDP比0.1%に過ぎない構造調整による債務削減額を0.5%に増やす必要があると主張しています。レーン委員の見方では、政府の支出予算案ではイタリアの国家債務を早急に削減することは不可能、よってイタリアはEU「投資条項」に適合しないということになります(つまり同条項が認めている“いくつかの予算項目を赤字削減対処からは外す”ことができない。あらゆる支出が赤字削減の対象となる)。
 12月9日、何千という農民、トラック運転手、年金受給者、失業者が反政府・EUの立場から継続的に行われている街頭抗議行動に参加しました。デモ隊は線路内を歩いて列車をストップさせ、またトラック運転手はのろのろ運転と道路封鎖で交通をかく乱させるストを行いました。更なる抗議行動が予定されています。

スロベニア

 銀行セクターに大きな問題を抱えつつも、スロベニアはいまだなんとかトロイカの手を逃れようとしています。最近、銀行セクターのストレス・テストが行われました。このニュースが出るころには結果が出ているはずです。不良債権の額は79億ユーロ(GDPの約20%)に上ると見られています。
 しかし、スロベニアの中央銀行は「ストレス・テストの結果はすでにわかっている」と述べ、政府は自己資金だけで銀行システムへの資金注入が可能だと楽観的な姿勢でいます。これには47億ドルが必要となるだろうと言われています。

訳者による参照サイト
http://ec.europa.eu/economy_finance/assistance_eu_ms/greek_loan_facility/
http://euobserver.com/economic/121993
http://www.europarl.europa.eu/news/en/news-room/content/20130304BKG62046/html/Economic-governance-two-pack-background-note
http://www.jetro.go.jp/jfile/report/07001470/eu_economy_finance.pdf
http://www.central-tanshifx.com/market/market-view/sf-20131018-01.html
http://www.iol.co.za/business/international/italy-failing-to-cut-debt-quickly-enough-1.1616218#.Ut0HW_sReT8

 

【でっとばい7号】アイルランド復興は欧州流のたわ言

原文

【訳者より】 アイリッシュ・タイムズの人気コラムニスト、フィンタン・オトゥールがニューヨーク・タイムズに寄稿したコラムです。ここでオトゥールは “アイルランドは「完璧なスリムダウンに成功!」の虚飾のイメージを維持するのに苦しんでいる”と主張しています。2013年12月半ば、政府がトロイカ・プログラムからの卒業を意気揚々と宣言したときも、彼は3つの嘘について記事を書いています。その嘘とは、ひとつは本文中にもある、トロイカ自身が間違っていたと認める政策が変更もなしに押し付けられ続けていること、二つ目は、財務大臣ヌーナンが2011年6月に国民に向けて銀行の債券保持者を保護しないと言ったのに、実はその2ヶ月前にECBの説得でその政策を反故にしていたこと、三つ目は貧しい層ほど大きな負担を負う緊縮政策であったことです。本文中にも、いま、ダブリンの地価が上がっていることに触れられていますが、結局、好況でも不況でも大銀行は一向にソンをしないことだけはよくわかりました。不況で資産価値が下がって、転売しても返せないローンのカタに住宅を取り上げて、今度は景気回復と煽って地価を上げ、それを高値で売ればいいんですから。アイルランドの銀行は「中小企業への融資や住宅ローンを増やす」といかにも困っている市民を自分たちが救済するような口ぶりで発表しています。(2014年1月28日記)



アイルランド復興は欧州流のたわ言

フィンタン・オトゥール 2014年1月13日



クリスマスの直前、ダブリンの靴屋の若い店員と話すチャンスがあった。

前日、TVのニュース番組の取材があったそうだ。取材班はクリスマス商戦で売り上げが伸びているか尋ねた。5年間の暗闇に打ちひしがれたアイルランド経済に、やっと日が差し始めたことを示す印として。

靴屋の店員のほとんどは、実のところ売り上げは散々だと答えたが、一人だけが楽観的に、よくなっていく兆しがある、と述べた。TVニュースをチェックした店員は、その楽観的発言だけが番組で流されたのを見てもさほど驚かなかったそうだ。

長い緊縮政策を自ら進んで引き受ければご褒美がもらえる証として、誰もがアイルランドの“いいニュース”を望んでいる。一般市民は希望に飢えている。政府は、副首相エーモン・ギルモアの言葉を借りると、“断固としてアイルランドをヨーロッパのサクセス・ストーリーにするつもり”でいる。

欧州中央銀行の有力理事ヨルグ・アスムッセンも、「アイルランドのプログラムはサクセス・ストーリーに終わった」と述べ、ドイツのアンゲラ・メルケル首相も「危機にある国が身の振り方を考えるときのお手本」とアイルランドを誉めそやしている。

唯一の問題は、われわれ、ここアイルランドに住んでる住民のほとんどが、このサクセス・ストーリーが「ショーシャンクの空に」というより「ロッキー」みたいだと感じてることだろう。解放の喜び、というより、ただ、殴られ続けるのに耐えて立っていた。今でもなんとか立っているが、あまりにひどく殴られ続けたので、ほとんど正視に堪えない。

そう、やっと事態が好転するのだ。しかし、二つの疑問がこの楽観論をしつこく曇らせる。こんなにも長い間、苦しむ必要があったのか?そして、劇薬は本当にアイルランドの病を治したのか?

特に保守派にとって、アイルランドは国家版タイラ・バンクスみたいなものだ。モデル国家。唯一の問題は、一体なんのモデルなのかはっきりしないことだ。

経済ブーム期、アイルランドは長い間、緩い法規制と低い税率という完璧な美貌を誇っていた(上院議員ジョン・マケインは、2008年の大統領選でバラク・オバマ上院議員との討論で、アイルランドの低い法人税を米国のモデルとすべきだと主張した-正に抜群のタイミングだ。ちょうどアイルランドは危機に向けて滑り落ち始めていた)。
アイルランドが長いスランプから一時的に浮かび上がると、今度は緊縮政策という美徳の偉大な実例として引用される。

ドイツの財務大臣で財政タカ派のヴォルフガング・ショイブレが10月述べたように「アイルランドは自らがするべきことをした。そして今、すべてが順調だ」。アイルランドは、羽目をはずした乱痴気騒ぎの時でも、国際経済を破滅させる死神のように見られたときでも、いつでもサクセス・ストーリーなのだ。過食でも拒食でも、われわれは決して間違いを犯さない。

われわれアイルランド人は天性の楽天家だ。しかし、ショイブレ氏の「すべてはOK」発言は、ドイツ人がわれわれアイリッシュの楽天さを凌駕した珍しい例だ。彼の信じるところのものは、確かに“真実”だ。再開発されたダブリンの港湾地区の、光り輝くグーグル、Twitter、フェイスブック、Yahooの欧州本社、おしゃれなカフェやホテルなどを見る限りは。もしこれで “危機”なら、ブーム期のアイルランドは一体どんなだったんだろうと思うことだろう。

1億2千万ユーロ(約150億円)をかけ昨年4月にオープンした最高に瀟洒なマーカー・ホテルとマンション群は、ロサンゼルスやドバイにあってもおかしくない。これらが、アメリカの気鋭の建築家マーサ・シュワルツ設計のグランド・キャナル広場やダニエル・リベスキンド設計の贅沢な劇場を見下ろしている。不動産バブル投機で散々痛い目にあった国で、再びダブリンの住宅価格が高騰し始めており、昨年は13%あがった。

アイルランドには二つの経済がある。米国のハイテク会社中心の国際経済と、ほとんどのアイルランド人がそこから生計を立てている国内経済。前者の隆盛は本物だ。低い法人税に加えて、巨大多国籍企業はダブリンにパブとナイトライフ以外のお楽しみを見出しているのだ。アイルランドの輸出(のための投資への)依存がどれほど大きいかは、2013年にバイアグラ(ファイザー社がコーク州で製造していた)の欧州の特許が失効した際にアイルランドのGDPが深刻な打撃を受けたことでわかる。大雑把に言って、アイルランド経済の国際向けの方は堅調に推移している。

しかし、われわれが心痛めるのはふるさとのこと。ハイテク多国籍企業関連の門を一歩出た、国内経済の方である。ダブリン以外、不動産価格はいまだ落ち込んでいる。ほとんどの労働者の賃金は急激にダウンしたままだ。失業率は相変わらず高い。12.8%といわれるが、もし移民で人々が出て行っていなかったらもっと高いだろう。アイルランドがうまくいってるかどうか測る昔ながらの方法がある。クリスマス・ホリデーの終わりごろに港や空港に行って、両親に別れを告げて米国、カナダ、オーストラリア、英国に向かう若者の数を数えてみればいい。そこで彼らは仕事とチャンスを探すのだ。

他の国民は苦しい時代に抗して闘うが、アイルランド人は出て行く。そして今、1980年代以来なかったほどの数の人が国を去っている。2012年4月から翌年4月までの間に9万人が移民し、2008年の危機勃発以降40万人近くが出て行った。ケンタッキー州(約450万人)ほどの人口の国にこの数は大きすぎる。

彼らが去っていくのは不思議でもなんでもない。サクセス・ストーリーなど信じていないのだ。ユニバーシティ・カレッジ・コークの調査では、移民のほとんどは大卒、しかもその半分近くはアイルランドでのフルタイムの仕事を辞めて移民しているのだ。彼らは食うにも困って打ちひしがれて移民するのではない。彼らは、この国が自分たちの求めるチャンスを与えてくれるなどとはとても思えない、この国への信頼を失ったから出て行くのだ。彼らは鳴り物入りの復興物語など信じてはいないのだ。

2010年12月、国際通貨基金(IMF)、欧州委員会、欧州中央銀行(ECB)のいわゆるトロイカがアイルランドの財政を乗っ取ったとき、彼らは公費支出大幅削減と賃下げは経済成長と同時に並行して起こり得ると思い込んでいた。たとえばIMFは、2011年から13年にかけてアイルランド経済は5.25%の成長を見せるだろうと言った。実際には成長率はその半分だった。

民間投資が干上がってる(アイルランドの投資率は現在ユーロゾーン平均の約半分)ところに公共投資までせき止めるのは問題だ、と思うのが常識というものだろう。5年間の緊縮を経たいま、アイルランドの子どもの4人に1人が、家族の誰も働いて稼いでいない家庭で育っていると聞いても、ショッキングではあるが、さほど驚きではない。

同時に、2013年末にトロイカが引き上げ、わずかながら経済回復のサインが見えたときにも、屋根の上でリバーダンスが繰り広げられるような大喜びが見られなかったことも別に驚きには値しない。アイルランド人は多少の罰は受ける覚悟ができていた。罪とその購いをめぐる物語から、カトリック的罪悪感はいまだ彼らの心を大きく占めている。人々はケルティック・タイガーの日々を悲しく振り返り、互いに100万ドルの家を売買することで金持ちになれると考えてたなんて、バチンと鞭打たれる位の刑にあっても仕方ない、と思っている。しかし彼らは、こんな残酷な規模の罰が必要だったとは思っていないし、こんなひどい薬に実際に効き目があったとも思っていない。

これらの問題の背後には、アイルランド緊縮政策とそのサクセス・ストーリーの大きな矛盾が不気味にその姿を見せている。この緊縮は、結局市民にとってだけの緊縮政策だったのだ。

社会予算のカットや厳しい財政責任への呼びかけの影で、宵越しの金を持たない主義の船乗り(英語でdrunken sailorは金を湯水のように使うことの例え:訳注)がけち臭く見えるほどの大判振る舞いの政策が進行していた。トロイカの政策は、一方では賃金、福祉、保健医療、教育に大鉈を振るわせ、その一方で、膨大な資金を破綻の瀬戸際にある銀行に振り向けさせた。そこには悪名高いアングロ・アイリッシュ・バンクも含まれている(同行は現在清算処理中)。

ECBの主張する“一人の債券所有者も見捨てない”政策はとんでもなく高くついた。EUはつい最近、加盟国の将来の銀行危機に備えて750億ドルの基金を創設することに合意したが、ちっぽけなアイルランドは銀行救済のために一国で850億ドルをつぎ込んだのだ。

アイルランド市民にとって特に腹立たしいのは、今になって平然と、銀行救済がいかにばかげたアイディアだったかを認めていることだ。欧州委員会経済担当理事で、危機勃発以降アイルランドの経済戦略立案の舵を中心的に取ってきたオリー・レーンは、「後から考えれば、銀行の無制限救済といったいくつかの間違いを指摘するのは簡単だと思う」と述べている。間違いを認めるからといって、じゃあ、政策を変更するかというとそんなことはない。「もはや流れる川のごとく過ぎてしまったことだ。そして我々は川の流れ自体に変更を加えたのだ。」「アイルランドはいま、はるかにましなところにいる」とレーン氏はわれわれに請合っている。

しかし、実は川の流れは変わっていない。何としても経営破たんした銀行を救うという壊滅的な決断に端を発する激流のごとき債務は、いまだに流れ続けている。ユーロを救ったというこの国の功績を認めて欧州のパートナーがアイルランドの債務を軽減してくれるかもしれない、という望みはいまや消えかかっている。

ちっぽけなアイルランドは仲間のために全力を上げて奮闘した。お返しに頭をなでてもらい、どこか怪しげな“サクセス・ストーリー”の称号をもらって喜んでいる。

結局、緊縮財政はアイルランドの国家債務を減らすという一番基本的な目標さえ達成できなかった。債務は逆にこの5年間急激に増加した。2009年にはGDPの64%だったものが、去年は125%になった。社会支出が大幅に削減された同時期、債務は二倍に膨れ上がった、

アイルランドは本当にモデルになれるかもしれない。苦しみながら、スリムダウンした完璧なプロポーションという虚偽のイメージを維持しているという意味で。


フィンタン・オトゥールは、アイリッシュタイムスのコラムニスト。プリンストン大学の客員講師。 
 

【でっとばい7号】アイルランド“救済”675億ユーロの救済融資、895億ユーロが銀行へ(2013-12-27)

ATTACヨーロッパ・プレスリリース2013年12月27日
アイルランド“救済”675億ユーロの救済融資、895億ユーロが銀行へ


原文

アイルランドのキャッシュフローに関するアタックの調査で、アイルランド政府から金融セクターに流れた金額が、政府が受けた救済融資額をはるかに上回ることがわかった。EUの危機対策は、銀行システムに何十億ユーロもの金を注ぎ込むために庶民の血と経済を絞り取るというものだ。


詳細な計算と資料は:http://www.attac.at/uploads/media/backgroundmaterial_ireland_english.pdf

12月15日、アイルランドはトロイカ(欧州委員会、欧州中央銀行ECB, 国際通貨基金IMF)による“救済"プログラムの最初の卒業国となった。欧州の政治エリートはアイルランドの”サクセスストーリー“を喧伝しているが、アタックは実際の数字に注目した。アイルランドは2010年末以降、救済融資として675億ユーロを受け取ったが、同期間、895億ユーロに上る資金が国から金融機関へと流れていた。

国から金融機関に流れた資金の内訳

・ アイルランドの銀行への直接資金注入:181億ユーロ
・ アイルランド国家の債権者へ:58億ユーロ。うち375億ユーロが国債満期償還、183億ユーロが国債利払い
・ 国家資産管理機構(NAMA)へ:16億ユーロ。NAMAはアイルランド国内銀行の不良資産を買い集めたバッドバンクで、政府が保証する。
・ Irish Bank Resolution Corporation (IBRC:アイルランド銀行整理会社)救済のためのこれまでの支出 - 140億ドル。IBRCは破産し国有化された二つの銀行が合併したもの。うち129億ユーロがNAMAによるIBRCの資産買取、11億ユーロが政府保証の結果、同銀行の債権者に支払われた。

アタック・オーストリアのリサ・ミッテンドレインは「この“救済”の期間、アイルランドは救済融資で受けとる以上の資金を金融機関に注ぎ込みました。アイルランド市民を締め付け、欧州の銀行セクターが生き残る代金を彼らに払わせたのです。」と結論付ける。

道を踏み外したアイリッシュ政府をトロイカがさらにとんでもない方向に誘導

この救済プログラムで、アイルランド市民は他のユーロ諸国よりはるかに巨大な銀行救済の重荷を背負う羽目になった。2008年から2010年の間に、765億ユーロが直接・間接にアイルランド国内の金融機関に流れた。「アイルランド政府は無制限の銀行救済政策を決定しましたが、トロイカがそれをさらにとんでもない方向に誘導したのです」とミッテンドレインは批判する。

ヘッジファンドへの返済肩代わりをECBがアイルランドに強要

アイルランド政府の危機対策の詳細には、トロイカの影響が大きく現れている。アイルランドは銀行を国有化してしまったために、政府保証のついていなかった債務まですべての債権者に返済をしなくてはならない。EU議会の委託を受けた専門家の報告を見ても、ECBが「アイルランドの銀行への緊急融資を引き上げる」と脅してアイルランド政府にこのような政策を取らせたことがわかる。全債権者への全額返済は救済合意の内容となっていなかったにもかかわらず、またIMFは政府保証を受けていない債券保有者の損害負担(ヘアカット)を助言していたにもかかわらず、このような政策が採られた。これによってECBは、ヘッジファンドのような多分に投機的な投資家まで保護した。これらの投資家は、銀行がつぶれるか国に救済されるかの瀬戸際のときもそれを知りつつアイルランドの銀行に高利で融資していた。報告書はECBは権限を逸脱した恐れがあり、将来はトロイカから外すことを提言している。

利得者は金融界の紳士録メンバー

無保証債券保持者の身元は、政治エリートたちにより秘密にされている。元ブローカーでブロガーのポール・ステインズが、アイルランド最大の破産を引き起こしたアングロ・アイリッシュ・バンクの債権者リストの一部をリークしている。それにはアリアンツ、バークレー、クレディ・スイス、ドイツ銀行、ゴールドマン・サックス、HSBC、ソシエテ・ジェネラルといった大物国際金融機関が含まれている。ライフェイセン、エルステ銀行といったオーストリアの銀行の子会社までステインズのリストに記載されている。

2013年10月、ドイツの財務大臣ヴォルフガング・ショイブレはアイルランドに関して「アイルランドはやるべきことをやった・・そしていま、すべては順調だ。」とコメントしている。リサ・ミッテンドレインはこの態度を厳しく批判する。「順調なのは欧州の金融エリートだけだ。うまくいってるのは救済された銀行セクターの紳士名鑑に乗るような人たちだけで、一般市民ではない。これは全然サクセスストーリーなどではない。」

国民年金基金の略奪

アイルランド市民は暴力的な緊縮政策を通じて、金融機関の蓄財のための資金を払い続けている。 アイルランドは自身の“救済”のために175億ドルを支出したが、うち100億ドルは国民年金基金NPRFから流用された。この基金は元々、将来のアイルランド市民の年金を確保するために立ち上げられたものだった。この金は資本注入として直接銀行にまわされた。

2013年末、政府はこの基金全体を投資基金に変えることを決定した。将来の年金の確保はもはや第一優先事項ではなくなった。何より民衆は6年続いた緊縮政策で手ひどく痛めつけられている。付加価値税(VAT、日本流に言えば消費税:訳注)は23%にアップ。児童手当は引き下げ、若者への失業手当は半分に減らされ、大学授業料は2500ユーロへと3倍に上がった。すべてひっくるめて、280億ユーロ以上の金が2008年以降、アイルランド社会から搾り取られてきた。

EU最大の移民送り出し国

緊縮政策が社会に与えた影響は甚大だ。人口の約3分の1が、貧困、または社会からはじき出される恐れがある。10人に1人が飢餓に苦しんでいる。最貧層が自由に使える収入は一年間で26%の減収、一方で最富裕層の収入は8%増加した。これは危機対策政策が社会的に偏っていることを如実に表している。すでにこの4年間で30万人が国外に移住していったが、国内に残っている18歳から24歳の年齢層の2人に1人も国を去ることを考えている。2012年、アイルランドはEU最大の移住(離国)率を記録した。わずか6年前には、同国は欧州最大の移民受け入れ国だったのだ。

増え続ける政府債務

声高に喧伝されるサクセス・ストーリーとは裏腹に、アイルランド経済は回復からは程遠い。現在のGDPは危機前より12.6%低い。失業率は13%、危機前と比べて2倍以上だ。若年層失業率は27%。銀行はその本来の役目である、実体経済への信用供給の役目を果たしているとはとてもいえない。直前の四半期には、中小企業の融資申し込みの半数が却下されている。銀行救済の結果、国家債務は2007年の25%から2010年の91%と劇的に膨れ上がったが、これはトロイカ指導のもと、さらに増え続け、目下のところ、2013年には124%に達すると予測されている。

アイルランド“救済”は実は金持ち救済

「政治エリートたちによる危機対策の主目標が、欧州の金融セクターと最富裕層の富の保護であることは私たちの調査結果から明らかだ。」とミッテンドレインは結論付ける。「そのために、彼らは社会全体の繁栄を犠牲にし、膨大な失業、貧困、悲惨を容認している。」

2008年以降、6700億ドルの公的援助が欧州の銀行に送られ、さらに何千億ユーロもの金がアイルランドやギリシャといった国を通して今も金融セクターに流れ込んでいる。救済されたのはアイルランド市民でもアイルランド国家でもなく、欧州の金融エリートだ。ユニバーシティ・カレッジ・ダブリンの社会学者・経済学者で、アタック・アイルランドの活動家アンディ・ストレイの分析もこの見方を裏付けている。「欧州の納税者がアイルランドのために貸した金の大半は、民間債務の肩代わり返済に使われた。この借金は、アイルランドであれ、欧州の他のどこの国であれ、一般市民の大半には何の責任もない金であり、この危機を加熱させた不当な債務だ。」
ラディカルな変革の機は熟している

欧州危機に対する政策をラディカルに変革する機は熟している。「我々の政府は、金融機関救済のために過剰な額の公金を与えるのをやめなくてはならない。」とミッテンドレインは要求する。必要なのは厳しい規制だ。“大きくてつぶせない”銀行は、社会全体の脅威とならないよう分割すべきだ。中期的には、利潤第一ではなく社会全体に貢献するものとして、銀行セクター全体がその業務を本来のもの-預金管理と融資―に限定するように変更していくべきだ。

社会福祉や保健医療制度の破壊を目論み、アイルランドや欧州で何億人もの人々を貧困に落としいれようとしている緊縮政策をやめさせなくてはならない。この政策を一般市民の利益を第一に考えた公的投資プログラム、EU規模で調整された税と経済政策に置き換えるべきだ。債務救済と、国際的に調整された財産税を通して、債権者と富裕層はこの危機の重荷を共に担うべきだ。「危機の代価はその原因を作ったものが払うべきだ」とミッテンドレインは言う。

「競争力協定」を阻止せよ

しかし現在、これまで述べてきたような政策がさらに加速されようとしている。これは絶対阻止しなくてはならない。EFSF(欧州金融安定ファシリティ)とESM(欧州安定メカニズム)のCEOクラウス・レグリンはアイルランドの“救済”プログラムからの卒業を「アイルランドとユーロゾーン全体の偉大な成功」と述べ、これを現在の危機対応政策が正しかった証拠として利用した。

政治エリートたちは現在「競争力協定」採用を検討している。これはアイルランドモデルを欧州全体に敷衍しというものだ。すべての国が、労働者保護法の改悪や賃金引下げ、民営化といった新自由主義政策の採用を公約させられる。

これらの政策の実施が、各国政府と欧州委員会との契約という形で保障される。欧州委員会は政策の進展をモニターし、アメとムチ(罰金)で実施を強要する。「競争力協定」はすなわち“トロイカよ、永遠に”ということだ。」とリサ・ミッテンドレインは結論付ける。「欧州内の広範な抗議行動のおかげで、この協定の採用は2013年12月から2014年6月へと先送りされた。私たちは、欧州の危機対策の方向を逆転させ、この“貧困化”協定を最終的に廃案に追い込まなくてはならない。」

連絡先 Lisa Mittendrein, Board Attac Austria +43 664 21 21 680 lisa.mittendrein(at)attac.at/Andy Storey, Attac Irland, Dozent für Politik und internationale Beziehungen, University College Dublin + 353 8765 43 872 andy.storey(at)ucd.ie

Footnotes(略)
 

2013年2月1日金曜日

6月25日発売!『世界銀行 その隠されたアジェンダ』

原題 “The World Bank: a never-ending coup d’état. The hidden agenda of the Washington Consensus
Eric Toussaint 著/大倉 純子  訳

柘植書房新社より絶賛発売中!
定価3200円+税

※ご協力いただいた皆様スイマセンでした!大変遅くなってしまいましたが、いよいよ発売です!以下に日本語版序文と訳者あとがきを先行公開しています。

== 目 次 ==

献辞
日本語版序文
この本について
略語表
用語について
はじめに
1、ブレトンウッズ機関の設立
2、世界銀行、その揺籃期(1946-1962)
3、国連と世銀の複雑な関係
4、第二次世界大戦後の状況:マーシャル・プランと米国の二国間援助
5、米国の旗の下で
6、世界銀行/IMFによる独裁者支援
7、世界銀行とフィリピン(1946-1990)
8、世銀によるトルコの独裁体制支援
9、世界銀行とインドネシア 介入のモデルケース
10、世界銀行の開発理論
11、韓国 奇跡の正体
12、債務の罠
13、債務危機の予兆と世銀の対応
14、メキシコ債務危機と世界銀行
15、世界銀行とIMF 債権者に奉仕する取り立て屋
16、バーバー・コナブルとルイス・プレストン両総裁の時代(1986-1995)
17、「愛される総裁」-ジェームズ・ウォルフェンソン(1995-2005)
18、21世紀の幕開け ワシントンでの論争
19、世界銀行の台所事情
20、世銀第十代総裁 ポール・ウォルフォウィッツ
21、構造調整とワシントン・コンセンサス それはすでに過去のものか?
22、世界銀行と人権
23、世界銀行の無罪放免に終止符を打つとき
24、世界銀行に対する告発状
付録:世界銀行グループ・ファクトシート
用語集
参考文献
訳者あとがき
 
 

2013年1月31日木曜日

日本語版序文:世界銀行 その隠されたアジェンダ


エリック・トゥーサン

日本は世界銀行内で米国に次ぐ決定権(9%余の投票数)を有する。日本一国で中国の三倍、ドイツとフランスの合計の二倍の投票数を握っている。これが、日本の市民がこの国際機関の内実を知っておくべき理由のひとつだ。世銀は人々の基本的人権を落としめ、その歴史を通して、世界の民衆に対し非道な役回りを演じ続けてきた。のみならず、世銀が資金援助するプロジェクトは計り知れぬ環境破壊を生み出してきた。

本書の仏語初版が発行された2006年以降も、世銀の政策にはいささかの改善も見られない。自然保護や気候変動との闘いという謳い文句を隠れ蓑に、実際には温暖化ガス排出を増大させる事業を続けている。

2007年から08年にかけて南の国々の何千万という人々を困窮に陥れ、いまだ完全に収束していない食糧危機の責任の一端は世界銀行にある。2007年から08年の一年間で、飢餓人口は1400万人増加した。この飢餓増大は食糧価格の急騰に由来する(注1)。多くの途上国で食料価格の値上げは50%にも達した。

世銀はこの食糧危機に大いに責任がある。世銀は、南の諸国の政府が食糧不足や価格高騰の際に国内市場に供給するために利用されて来た穀物貯蔵庫を廃止するように進言していたからだ。

世銀とIMFは農民のための公的な信用機関を廃止させ、農民が直接、町の金貸し(しばしば大商人を兼ねている)や民間銀行から目玉の飛び出る高利で借りるように南の政府に仕向けさせた。そのためインド、ニカラグア、メキシコ、エジプト、サハラ以南アフリカ諸国の多くの小農民が借金に苦しむことになった。政府調査では、この10年で15万人に上るインド農民の自殺の主な理由は過重債務だ。この国は世銀の説得で、農民への公的信用供与機関を閉鎖してしまった。

これで終わりではない。過去40年以上にわたり、世銀とIMFは熱帯の国々に小麦、米、とうもろこしの生産を減らし、代わりに輸出作物(ココア、コーヒー、茶、バナナ、ピーナツ、花卉など)を作るように強要した。

最後に、これらの成果のすべてが巨大アグリビジネスと穀物輸出大国(米国、カナダ、西ヨーロッパなど)の懐にいくように、世銀・IMFは南の政府に市場を開放して食料を輸入するよう説得した。南の国に流れ込む輸入品は北の国の政府から巨額の補助金を得ている。価格で太刀打ちできない南の農家の多くが破産し、各国の主食となる食糧の生産も劇的に減少した。

世銀はまた、何世代にも渡って小農民が耕してきた農地の収奪を助長する政策を強力に推し進めている。多国籍企業や海外政府が、小農民を追い立て現地の農業を破壊しながら、耕作可能な土地を何十万ヘクタールも買いあさっている。

2009年、世界経済危機で失業率がうなぎのぼりで上昇しているさなかでも、世界銀行は労働者へのセーフティネットの廃止を主張し続けた。

”Doing Business”2010年版(注2)には2009年9月に発行され広く回覧された年次報告が掲載されている。その中で世銀は、自らのインフォーマル経済との戦いを紹介し、「雇用規制の柔軟化に踏み切った諸国では、インフォーマルセクター減少の割合が25%も大きかった」と強調している。

2003年の”Doing Business”創刊以来、世銀は毎年「ビジネス環境」改善に向けて努力した国々の評価を発表している。その目的は社会的な権利を矮小化させながら、常に投資家の権利や私的所有権を強化し続けることにある。
実際、最も「発展した」経済はどこかを示すランキングにおいて、世銀は労働者の雇用と解雇に関する指標を使っている。ある国の法制度が容易に労働者を解雇できるようになっていればいるほど、その国は高い位置にランクされるのだ。社会運動や国際労働組合総連合からのあまたの批判にも関わらず、世銀は各国政府に退職金切り下げや解雇予告義務の緩和・廃止を要求し続けている。

たとえば2009年、ルワンダは大幅にランクアップしたが、これには「立派な」理由があった。経営者はリストラに際して、もはや労働者代表との事前協議も、労働監督局への事前通知も要求されなくなったのだ。一方、ポルトガルはランクを下げたが、それは同国が2週間の解雇予告期間制度を廃止しなかったからだ。労働者の待遇を(わずかばかし)よくしたためにランクを下げられた国々は数え切れない。

このような実状を前にしても世銀は「”Doing Business”の雇用に関する指標は、中核的労働基準をすべて考慮に入れている(ただし、遵守されているかどうかを示すものではないが)」と胸を張っている。国際労働機関(ILO)の基本条約違反でEUから貿易特恵を剥奪されたベラルーシは、”Doing Business”2010で高い評価を受けている。つまり、”Doing Business”でのランクが上がるということは、その国の民衆にとっておめでたくもなんともないどころか、逆に社会的退行の印なのだ。

最後に、世銀が今年、東欧諸国の数々の反社会的改革にいたく満足し、「本年は特に目覚しかった(注3)」とこれらの国々を賞賛したことは覚えておいたほうがいいだろう。2008年以降、この地域の15余の国々がIMFと合意を締結した。世界銀行が世界危機を口実に、労働者に対する資本の側からの新たな攻撃を煽っていることは確かなのだ。

世界銀行は、その政策による被害の長年の積み重ねと、その創設以来、米政府がお膳立てする米国人がトップに立ち続けていることへの批判により正当性の危機に直面している。

2006年に本書がフランスで出版されたのは、2003年の米国と同盟国によるイラク侵略の立役者の一人、ポール・ウォルフォウィッツが第十代世銀総裁に就任したばかりのころだった。彼は2007年6月、部下の女性との親密な関係ならびに彼女に巨額の昇給を認めたことを糾弾され辞任した。

世銀の新自由主義的イメージは、2007年から2012年までウォルフォウィッツの後任を務めたロバート・ゼーリックによってますます強化された。彼はブッシュ政権下で米国通商代表を務めた。彼は米国を代表してWTO交渉を推し進め、特に2001年のドーハ会議では辣腕を振るった。

現総裁となったジム・ヨン・キムが2012年6月にバラク・オバマに指名されたときは激しい抗議が起こった。彼は名前が示すように韓国系ではあるが、結局のところはまた一人、米国人が世銀のトップに立つことになるからだ。

何十年にも渡り、日本政府は世界銀行の政策に積極的に加担してきた。日本の市民が南の国々の民衆と連帯し、世銀に出向している自国の代表に説明責任を果たすよう要求すべき時である。

南の民衆は、エクアドルに見られるように、徐々にみずからを世銀のくびきから解放し始めている。エクアドル政府は2007年5月、民衆の支持の下、キトに駐在する世銀代表を追放し、ついで自国が抱える債務の監査を開始した。2010年には世界銀行の仲裁法廷である投資紛争解決国際センター(ICSID)からの脱退を決定した。ボリビアは早くも2007年に同じ決定を下しており、ベネズエラも2012年に脱退した。これら三カ国は他の四つの南米の国々(アルゼンチン、ブラジル、パラグアイ、ウルグアイ)と共に、南銀行(BancoSur)設立を決定している。

これらの事例が証明するように、世界銀行の代わりを果たし得るものはあるし、また、なくてはならない。本書が示すような、世界銀行がその設立以来一貫してとって来た問題行動を見ればそれは明らかだ。

原注
1, エリック・トゥーサン  “Getting to the roots of the food crisis” http://www.cadtm.org/Getting-to-the-root-causes-of-the 参照

2,  http://www.doingbusiness.org/documents/fullreport/2010/DB10-full-report.pdf
Doing Business 2010はビジネスを容易にする、あるいは困難にする法規制に関する年次報告書の第七版である。同報告書は、企業や所有権保護に関する法規制を数値目標化し、183カ国の法制度を比較検討している。企業のライフサイクルを10段階に分けて、それぞれに対する各国の法規制の影響を評価するのだが、その10段階とは、ビジネス立ち上げ、建築許可取得、労働者雇用、資産登録、信用を受ける、投資家保護、納税、国際貿易、契約履行、ビジネスの終了、となっている。Doing Business 2010には2009年6月1日以降のデータが使われている。この指数は、法規制が経済にどのような結果を及ぼしたか、どのような改革が効果的か、なぜそうなのかの分析を助ける役割を果たす。2010年度版では183カ国が対象になっている。

3, http://www.doingbusiness.org/features/Highlights2010.aspx “Doing Business in 2010: A record in business regulation reform”