2010年11月7日日曜日

「ユーロ危機によって、債務に耐え得るかどうかの議論が始まる」

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「ユーロ危機によって、債務に耐え得るかどうかの議論が始まる」
06 May 2010 by Oygunn Brynildsen and Nuria Molina

 現在、ヨーロッパ各国が直面している債務問題は、対外債務危機の原因と解決方法を模索する各国の政界に新たな議論を巻き起こしている。
 これまで非流動性や債務超過といった危機は主に途上国の問題であり、それらの国々は危機による社会的悪影響に長年苦しんできた。国家の再興には強制的な構造調整の実行が条件とされるため、途上国は非常に困難な状況に置かれている。大抵の場合、社会的支出や公共投資よりも貸し手の要求が優先されるために、貧困の克服や均衡ある発展が阻害されている。
 もはや、債務超過と再編の問題は途上国だけのものではない。この数ヶ月の間に、ヨーロッパではギリシャのみならず周辺のユーロ圏の国々も危機の間際に立たされている。ヨーロッパ連帯メカニズムを始動させるべきとの声に反して、ヨーロッパ各国政府は次に挙げるような重要な議論を先延ばしにし ている。

・現在、周辺諸国の債務を危機的レベルに引き上げている欧州通貨統合の根本的な欠陥、および一部の国の内政問題、世界的金融危機の影響にどのよう に対処するのか。
・これらの危機に対し、どのようにして公平かつ効果的な方法で対応するのか。

ユーロ圏:責任の痛み分けか、あるいは弱肉強食か
 ギリシャの悲劇は深刻な国内問題のみならず、巨大なマクロ経済の不均衡の結果でもある。
 Research on Money and Finance 誌の最新のレポート、「ユーロ圏危機:自分と隣人を貧しくする政策」では以下のように述べられている。「ユーロ圏はドイツの海外経済余剰に侵食され、周辺諸国の経常赤字によって賄われる地域になってきている。」
 ユーロ圏各国は通貨が独立しておらず、財政政策において選択肢が限られているために(安定協定に強く拘束されている)、経済調整の圧力を労働市場 に押し付けざるを得ない。
 レポートはこう続く。「この競争は再統一によって自国の労働者を過剰に搾取してきたドイツの勝利となっている。」
 残念ながら、ユーロ圏はグローバルな金融システムと同じ重大な欠陥を抱えている。両者とも黒字国寄りの姿勢を取っており、黒字国と赤字国の不平衡を補う様ないかなるシステムも考慮されていない。グローバルな金融システムについてのEurodadの最新レポート「積み立てのコスト」で述べられている様に、「こうした政治体制によって、赤字経済と黒字経済のグローバルな不均衡が増大し、世界は不安定になっている。」
 「また、このシステムは世界的な完全雇用という目標に対して不公平かつ矛盾したものであることを証明している」、と国連グローバル金融危機専門委 員会のメンバーの一人は述べる。
 簡単に言えば、グローバル金融システム(またはシステムとは言えないようなもの)とユーロ圏は両者とも「持続不可能なマクロ経済の不均衡に陥りやすく、賃金と労働よりもはるかに金融資産の価値を保護する立場に立っている」、とEurodadのレポートでは強調されている。こうして、最貧国と最も立場の弱い人々はこうしたシステムによって敗者に追いやられるのである。

債務処理手続きが欠けているがゆえのコスト
 危機発生から数ヶ月が過ぎても、ユーロ圏の根本的な問題については何も話し合われないままであり、ギリシャ危機を効果的かつ公正な方法で解決する 手段も見つかっていない。債務問題を処理する秩序だった方法がないために、問題のある国(更に重要なのは、その国における社会的立場の最も弱い人 々)、およびその債権者両方が大きな代償を支払っている。ドイツやその他のユーロ債権国がギリシャの救済策について議論している間にも時間だけは経過し、債務危機は悪化しているのだ。1100億ユーロの救済策が公的支出の大幅カットを条件としているにもかかわらず、エコノミスト達はギリシャがいずれは債務を再構成しなければならなくなると予測している。
 ピサーニ・フェリーとサピア(ブリュッセルに本部を置くシンクタンク・ブリューゲル在籍)はこう述べている。「例え現在検討されている大規模かつ持続的な財政調整が実行されたとしても、本当にこの国(ギリシャ)が債務を完全に返済できるかどうかを疑うに十分な理由がある。」そしてこう続 く、「つまり、ユーロ圏は自身のメンバーの一人の債務再構成をどのようにして処理すべきなのか、という問題だ。」
 欧州政策研究センターのダニエル・グロスとトマス・メイヤーは、「債務不履行の結果起こる必然的な混乱を最小限に留めるメカニズムを作り出すこと が極めて重要だ」と述べている。
 こうしたことは、これまで市民社会団体が途上国の債務危機問題の流れで主張してきたメカニズムと同じものである。
 企業や家族が破産する前に債務を再構成できるようにする企業・個人破産法(例えば、米連邦破産法第11章)と同様の手法が用いられるべきである。 破産を回避するためのこうした手法は、企業と債権者双方の利益に基づくだけでなく、社会の利益に基づくものである。
 国レベルにおいても、債務問題が弊害をもたらす段階に至る前に債務の再構成を認めることで、債権者および国民双方にかかる負担を軽減できるだろう。
 ピサーニ・フェリーとサピアは、「秩序正しい債務削減メカニズムが欠如しているからと言って、債務削減が実行できないとは限らない。それなのに、 各債権国が自国の銀行を後押しし、いつまでも債務完済を主張するために状況が悪化している」、と述べている。

公正な債務処理手続きのために
 Eurodadとそのメンバー団体は、公的債務問題を処理するためには破産手続きを定める必要があると主張してきた。手続きは独立したものでなけ ればならず(特に、IMFやパリ・クラブの影響下に置かれないように)、公平かつ包括的で、すべての債権者を平等に取り扱うものでなければならない。債務処理メカニズムは問題となっている債務の根本的な原因を査定し、債権者の責任を考慮することが必要だ。今後、債務危機を回避するには、債務者だけでなく、債権者にも無責任な行動に対して責任を課すことである
 もっと重要なことは、このような債務不履行の危険性が高い国(もしくは機関)に対して、社会の最も弱い立場の人々の権利と利益を守るために必要な手段を与えるメカニズムが必要である。こうした人々は国家が債務不履行に陥った場合、大抵最も深刻な被害を受けるのだ。
 今回の危機の経験を、公平・透明かつ独自の方法による対外債務問題を対処するグローバルなレベルでのメカニズムを設置するための議論をする機会に 変えていくことが必要である。

原文 http://www.eurodad.org/whatsnew/articles.aspx?id=4122
翻訳 高丸正人 (債務と貧困を考えるジュビリー九州)

欧州ATTACネットワークはギリシャ民衆と連帯する: 私たちはユーロの危機に対して真の解決策を要求する

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欧州ATTACネットワークはギリシャ民衆と連帯する: 私たちはユーロの危機に対して真の解決策を要求する


我々は民衆主体の解決策のために団結する。
つけは金融に払わせよう、民主主義を取り戻そう!


 欧州ATTACは、資本主義システムが引き起こした危機に対するつけの支払いを拒否するというギリシャ民衆、ならびに他の南欧諸国の民衆の公正な抵抗を歓迎し、支持する。我々は、EU加盟国政府がユーロ危機への対処として打ち出した誤った解決策を拒否する。

 ギリシャをはじめとする欧州諸国の政府は、大多数の民衆に現在の危機のつけを払わせようとしている。欧州委員会、EU加盟国、およびIMFは危機を利用して、公務員給与の大幅引き下げ、年金減額または支給凍結、団体交渉中止、公共支出の大幅削減など、過酷な緊縮財政措置を実施している。加盟国政府の戦略は、欧州社会モデルとして今なお存続しているものすべてを破壊するために、これらの計画を利用することである。欧州全域には、緊縮財政計画の導入以前ですら、不平等が拡大していた。ユーロ圏で最も不平等が広がっていたのは、ギリシャおよびポルトガルであった。

 5月11日に加盟国が採択した「ユーロ救済計画」はユーロ危機の根源に一切、手をつけるものではない。問題の解決ではなく、問題の先延ばし以外の何ものでもない。

ギリシャに対する不公正および非効率な緊縮財政計画

 投資家−納税者の預金によって救われ、前代未聞の公的財政赤字を作り出した末に−は、今、ユーロに反発する(ユーロ売り)ことで各国を攻撃している。民主的管理とは裏腹に、彼らは、見境のない自らの行動の代償を、社会的予算の大幅削減を通じて市民が支払うことを期待している。ギリシャの状況は、徹底的な金融市場規制が急務であることをふたたび示している。

 金融危機以前ですら、企業および特権的部門に有利な減税および優遇措置が、財政赤字を深刻化させていた。さらに、統一した経済および財政政策なしに単一通貨を有するというユーロ圏の明白な欠陥が、欧州諸国間の膨大な貿易不均衡を招いた。ドイツなど貿易黒字国の輸出戦略は、賃金と課税のダンピングに依拠していた。

 現在EUから要求されている過酷な緊縮財政策は、金持ちおよび投資家のみを利する解決策である。ギリシャ人の大多数は特別扱いされていない。彼らの賃金および社会的権利は欧州平均を大きく下回る。ギリシャはむしろ高い賃金を、より多くの公共社会政策を必要としている。

 EU加盟国政府は、いたるところで緊縮財政策の実施を予定している。彼らはすでにポルトガルとスペインで実施した。ギリシャならびに他のEU加盟国の経済状況をより一層悪化させながら、彼らの政策は社会的不平等と現在の危機を深刻化させるだけである。

「ユーロ救済策」で状況が悪化する

 欧州委員会は、ギリシャおよび財政危機にある他の加盟国に融資するために金融市場から資金調達する必要があるだろう。そこで、まず、銀行およびヘッジファンドから600億ユーロの「安定化資金」を調達する。その際、ユーロ圏政府が4,400億ユーロの追加保証を行なう。
 この救済計画は、この15年間そもそもユーロに内在していた、そして現在では金融危機によって増幅した根本問題を何一つ解決しない。それは、貿易不均衡、とりわけ、ドイツの貿易黒字の協調的削減を組織的に実施しない。またそれは、調和させた欧州税制を提供するものではなく、唯一の信頼できる連帯ツール(連帯のための手段)となるであろうような予算を提供するものでもない。膨大な債務を積み上げることによって、その結果、政府を常に金融市場−それは新たなEUローンの最初ならびに唯一の受益者である—に依存する状態にしておくことよって、債務危機を解決しようとするものである。これにより、欧州は、かつてないほどのデフレと不景気の時代に突入するであろう。
 欧州政府は依然として、投機の危機を「自然災害」として表現し、それは、何千億ものユーロ−それは、社会的支出および公共サービスの削減によって捻出される−を犠牲にすることによってのみ解決できるとしている。しかし、投機家は人という行為主体[human agent]であり、噴火した火山ではない。彼らが作り出す大災害は、我々が彼らにそれを許容すると、発生する。しかしながら、EU各国政府は、これらの大災害にきっぱりとストップをかけることをEUレベルで決定することに躊躇している。

私たちは以下のことを要求する:

1. 社会的利益を破壊させない、不平等を拡大させない危機からの脱却を提供するギリシャへの真の連帯計画を実施すること。そして、それは、危機で儲ける者たち、および金融活動収益に対する課税によって資金提供されること。

2. ユーロ導入国が欧州中央銀行(ECB)から融資を受ける場合、金利を銀行と同一にし、総じて、ユーロ圏が真に進歩的な金融政策を採用できるように、ECBを民主的および政治的に管理すること。

3. すべての金融取引への課税、CDS(クレジット・デフォルト・スワップ)の禁止、資本移動の管理の回復、ギリシャをはじめとする各地域において納税忌避および脱税を阻止する措置の実施、欧州のタックスヘイブンの禁止、ならびに総じて言うなら、「大きすぎて破綻させられない」と判断された銀行を社会化することを通じて、金融市場を全体的規制および管理すること。

4. 対外貿易不均衡を調和的に削減すること、ならびに、社会的ダンピングを回避するために欧州全体で最低賃金を実施するメカニズムの導入をなどの調和的な賃金政策を実施すること。

5.ユーロ圏を再定義し、経済的および社会的連帯の空間を作り出すために適切なEU予算および上昇課税[upwards tax]の実施など、 ユーロ圏およびEU全域で共通の経済および社会政策を実施すること。

6. 欧州の問題にIMFを介入させないこと、ならびにIMFが、融資を受ける国に課す緊縮財政策を拒否すること。


 私たちはEUの市民社会に、自らの政府に対してこれらの提案を推進するよう、圧力をかけることを呼びかける。私たちは、ナショナリストまたはレイシストのアプローチならびに自国の身勝手さに依拠した議論または提案を拒否することを、ともに確認しなければならない。私たちは、根本的原因に取組む解決策、ならびにこれらのシステムから利益を得て、危機を引き起こした者たちにつけを払わせる解決策をともに推進させなければならない。
 私たちの提案は、差し迫る危機の影響に対処し、ギリシャおよび私たち自身の国の大多数の民衆が、彼らには責任のない危機に対して、確実にそのつけを払わなくても済むようにするための必要な緊急措置であるにすぎない。私たちは長期的には、オルタナティブな金融システムを目指さなければならない。


Attac Austria, Attac Catalonia,
Attac Flanders, Attac France,
Attac Germany,Attac Greece,
Attac Hungary, Attac Italia,
Attac Poland, Attac Portugal,
Attac Spain, Attac Wallowia


原文 http://www.attac.org/en/node/1846
翻訳 秋本陽子 ATTAC Japan(首都圏)

2010年11月4日木曜日

「ギリシャ 1つの悲劇と2つの脚本」 2010年7月17日 ワルデン・ベリョ(フィリピン下院議員)

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「ギリシャ 1つの悲劇と2つの脚本」
 2010年7月17日 ワルデン・ベリョ(フィリピン下院議員)

 アテネのカフェには人があふれ、今も観光客の群れはパルテノン神殿を訪れ、伝説をたたえたエーゲ海の島めぐりに繰り出す。しかし、夏の装いの下には、混乱と怒りと絶望が満ちている。この国はこの数十年で最悪の経済危機に落ち込んでしまった。
 世界のメディアはギリシャあるいは「小ギリシャ」を世界金融危機の第2段階の震源地とみなしている。第1段階の「グラウンド・ゼロ」がウォール街であったように。
 しかし、この2つのエピソードの語られ方には興味深い違いがある。

矛盾する2つの物語
 規制を解かれた金融機関の活動が、複雑きわまる金融証券を発明し、魔法のように儲けを生み出し、その結末としてウォールストリートの崩壊をもたらし、最後には世界金融危機へと変身した。
 ところが、ギリシャの場合、物語はこのように語られる:この国は財力に見合わない福祉国家を建設するために返済不能なほどの債務を積み上げてきた。今やこの浪費家はベルト締め直す必要がある。ブリュッセル[EU]とベルリンと銀行家たちは、不機嫌そうなそぶりをして、この地中海の快楽主義者たちに苦行を与えるピュリタンである。この者たちは収入以上の暮らしをし、2004年に莫大な費用をかけてオリンピックを開催するなどの虚栄の罪を犯したのだ。
この苦行はEUとIMFの緊急支援計画という形で与えられる。それは付加価値税の23%引き上げ、定年の65歳への引き上げ、年金と公務員賃金の大幅削減を行うと、雇用安定のための措置の廃止を伴う。これらの政策の表向きの目的は、福祉国家を抜本的にスリム化し、甘やかされてきたギリシア人たちが収入に見合った生活をするように導くことである。
 「福祉国家」の物語はいくつかの断片的な真実を含んでいるが、根本的な欠点がある。ギリシャの危機は、基本的には、ウォールストリートの崩壊をもたらしたのと同じ原因から起こっている。つまり、金融資本が無分別に大量の信用を提供することで利益を得ようと猛進してきたことである。ギリシャ危機はカルメン・ラインハルトとケネス・ロゴフの著書「This Time is Different: Eight Centuries of Financial Folly(これまでとは違う:8世紀にわたる金融の愚行)」で追跡されているパターンと一致している。猛烈な投機的融資の一時期のあとには、容赦なく国債や政府保証債(ソブリン債)のデフォルト(債務不履行)またはそれに近い危機が起こる。1980年代初めの第三世界の債務危機や1990年代末のアジア金融危機と同様に、ギリシャ、スペイン、ポルトガルをはじめヨーロッパ各国で起こっているいわゆるソブリン債の問題は、基本的には[資金の]供給側の問題によって起こった危機であり、需要側の問題ではない。
 ヨーロッパの銀行は、融資による利益を増やすために、現在ヨーロッパで最も深刻な問題を抱えているアイルランド、ギリシャ、ベルギー、ポルトガル、スペインに2.5兆ドル(推定)を注ぎこんだ。ドイツとフランスの銀行がギリシャの4000億ドルの債務の70%を保有している。ドイツの銀行は米国の金融機関から大量のサブプライム証券を購入していたが、同じ無分別さでギリシャ政府債を購入していた。国際決済銀行によるとフランスの銀行はギリシャへの融資を23%増やし、スペイン、ポルトガルに対しても融資をそれぞれ11%、26%増やした。
 興奮に包まれたギリシャの金融の舞台に登場した役者はヨーロッパの金融機関だけではない。ウォールストリートの大物、ゴールドマンサックスはギリシャの金融当局に対して、 金融派生商品(デリバティブ)を使ってギリシャの巨大な負債を隠す方法を教えた。ギリシャへの融資を増やすことを検討している銀行家に対して国家財政の状態を粉飾するためである。次に、この同じ銀行が、ギリシャがデフォルトに陥ることに期待して「クレジット・デフォルト・スワップ(CDS)」と呼ばれるデリバティブに関与した。その結果、ギリシャ政府が銀行から借り入れるためのコストは上がったが、銀行は大きな利益を得た[1]
 グローバル金融によってもたらされた危機というものがあるとすれば、ギリシャこそまさにその真っ只中にある。

物語の改ざん
 ギリシャについて語られる物語が、銀行や金融投資家の無責任な行動の物語ではなく、収入以上の生活をする人たちへの戒めの説話にすり替えられたのは、主に2つの理由による。
 第1に、金融機関が危機についての叙述を自分たちの目的に役立つように、うまく改ざんしたことである。大銀行は今や、サブプライム債券を抱え込むことによって劣化した貸借対照表のひどい状態を深刻に憂慮しており、貸し出しを広げすぎたことを認識しつつある。彼らが貸借対照表の立て直しのために用いている主要な方法は、債務者を人質に使って新規の資金を獲得することである。この戦略の中心として、銀行は公的機関がもう一度、危機の最初の段階で行ったのと同様に、今度は救済基金と低金利での資金供給という形で彼らを救済するように圧力をかけている。
 ユーロ圏の主要国の政府はギリシャや他の重債務国がデフォルトに陥るのを許容しないということを銀行は確信していた。そのようなことはユーロの崩壊につながるからである。
 銀行は、市場でのギリシャの評価が下がりギリシャ政府の借入コストが高くなればユーロ 圏の政府は救済策を講じるということを知っていた。救済策の大部分は、自国のギリシャへの債権を回収するために使われる。ユーロ圏の主要国の政府とIMFによってまとめられ、ギリシャ救済計画として宣伝されている1100億ユーロの救済策の大部分は、銀行を自分たちの無責任で野放図な過剰融資の結果から救済するために使われるだろう。
 銀行と国際金融機関は、1980年代の第3世界の債務危機の際に発展途上国に対して、また1990年代のアジア金融危機の際にタイとインドネシアに対して「信頼性のゲーム」をしかけたが、この使い古されたゲームがそのまま再現された。「北」の銀行や投機筋による猛烈な融資のあとに、今回と同じ緊縮政策(当時は「構造調整計画」と呼ばれていた)が導入された。同じシナリオが同じように演じられた。「収入以上の生活をしていた」という言い方で、犠牲にされた人たちに責任が転嫁された。政府機関は現金の先渡しによって金融機関を救済した。そして人々には、その現在および将来の収入の多くの部分を融資機関への支払いに充てることを確約させることによって、債務の完済という途方もない負担を押し付けた。
政府機関がスペイン、ポルトガル、アイルランドに過剰融資している銀行を救済するために、同様の巨額の救済策を準備していることは間違いない。

責任転嫁
 ギリシャや他の重債務国の場合に「収入以上の生活をする人たち」についての説話が持ち出されるもう1つの理由は、世界経済危機が始まってから市民や政府の間で強まっている金融規制強化への圧力をかわすことである。銀行はケーキを食べたあとにするはずだった宿題をしなかった。彼らは危機の最初の段階で政府からの救済基金を確保したが、政府がその条件として国民に約束した金融規制の強化を受け入れなかった。
 金融危機の最初の段階で、米国、中国からギリシャに至るまで各国の政府は、大規模な景気刺激策によって実体経済の崩壊を食い止めようとした。銀行や金融機関は、この大規模な財政支出にスポットライトを移動し、あたかも世界経済の主要な問題が規制のない金融活動ではないように描く物語を広めることによって、厳しい規制の導入を未然に阻止しようとしている。
 しかし、これは危険な火遊びである。すでにノーベル賞受賞者のポール・クルーグマンや他の人たちが警告しているように、もしこの物語が思惑通りに展開され、新しい経済刺激策も厳しい銀行規制も導入されなければ、全面的な恐慌に至らないまでも、非常に深刻な不況が起こるだろう。残念ながら、最近のトロントでのG20会合が示しているように、ヨーロッパと米国の政府は、目先の利益を最優先する銀行が設定したアジェンダ(課題)に追随している。彼らは国家の積極的介入が根本的な問題であると主張する懲りない新自由主義イデオローグたちの支持を受けている。これらのイデオローグたちは、深刻な不況あるいは恐慌すら、経済が安定を回復するための自然なプロセスであり、経済の崩壊を回避するためのケインズ主義的な財政支出は、この必然的なプロセスを遅らせるだけだと考えている。

抵抗:流れを変えることはできるのか?
 ギリシア人はこのすべてを黙って見ているわけではない。7月8日に、ギリシャ議会でのEU・IMF協定の批准に対して大規模なデモが行われた。その前にも、これよりはるかに大規模なデモが行われている。5月5日にアテネで40万人がデモに参加した。これは1974年に軍事独裁政権が倒れて以降の最大のデモだった。しかし、街頭デモがEU・IMFのプログラムの実施に伴う大規模な社会的災禍を回避するためにできることはごく限られているようだ。2010年に経済は4%縮小すると想定されている。議会内の左派連合シナスピスモスのアレクシス・チプラス委員長によると、この2年間に失業率は15%から20%に上がり、若者の失業率は30%に達すると予想される。
 貧困の問題について言えば、最近のカパ・リサーチとロンドン・スクール・オブ・エコノミクスの共同研究によると、現在の危機が始まる前でさえ、ギリシャの1100万人の人口のうち3分の1が貧困ラインに近い状態で生活していた。このような「国内の第3世界」を生み出しているプロセスは、EU・IMFの構造調整プログラムによって加速されるだろう。
 皮肉なことに、この構造調整はジョージ・パパンドレウが率いる「社会主義政権」によっ て推進されている。彼は昨年10月に、それまでの保守政権の腐敗とその経済政策の悪影響と決別することを期待する票を集めて選挙に勝利したのである。パパンドレウの党PASOK(全ギリシャ社会主義運動)の中でさえEU・IMFの計画に対する抵抗があることを、党のポーリーナ・ラムサ国際部長は認めている。しかし、党の国会議員団の間では、かつてマーガレット・サッチャーが言った有名な格言、TINA(「ほかに方法がない」)が圧倒的多数の感覚となっている。

従順の代償
 EU・IMFの計画がもたらす荒廃を前に、ギリシアではデフォルトの脅しを使うという戦略や債務の一方的な大幅削減が話題になることがますます多くなっている。チプラス委員長は、そのような方法をポルトガル、スペインなどの重債務国と連携して導入することも考えられると言う。この点についてはアルゼンチンをモデルにすることができるかも知れない。アルゼンチンは2003年に、債権者に対して1ドルにつき25セントのみを返済するという大胆な債務削減を行った。アルゼンチンは債務削減に成功しただけでなく、これまでなら債務返済のために国外へ流出していた資金を国内経済へ還流することができ、2003年から2008年の平均10%の経済成長が可能になった。
 確かに「アルゼンチン方式」には多くのリスクがある。しかし、IMFに従順に従ったらどうなるかは、IMFの構造調整計画に従った国の記録を調べれば痛々しいほど明白である。
 フィリピンは、毎年の国家予算の25〜30%以上を外国の債権者への支払いに優先的に充当することによって、1980年代半ばに10年に及ぶ停滞を経験し、その後も回復していない。その結果、継続的に貧困状態にある人の割合が30%を超えている。メキシコは過酷な構造調整政策によって締め付けられ、20年に及ぶ継続的な経済危機に追い込まれ、その1つの結果として麻薬取引が広がり、国家の機能が脅かされるにいたている。タイの現在の階級間戦争と形容される状態も、1つの背景には10年前にこの国に導入されたIMFの緊縮政策による経済的打撃の政治的影響がある。
 ギリシャに対するEUとIMFの構造調整計画は、危機の真只中にある金融資本主義にとって、もはや南と北の違いは大きな問題ではないことを示している。皮肉好きの人はギリシャに「第3世界へようこそ」と言うだろう。
 しかし、皮肉を言っている時ではない。今こそ、グローバルな連帯のための決定的な瞬間である。私たちはみな、この瞬間を共有しているのだ。


 
訳者注01: CDSとは、保証料を支払っておけばデフォルトした場合に損失金額を保証されるという契約。国債を持っていなくても、CDS契約をしておけば、国債の額面価額と時価(デフォルトによって二束三文となっている)の差額が手に入る。相沢幸悦、中沢浩志「2012年、世界恐慌」(朝日新書)p155より

原文 http://www.zcommunications.org/greece-same-tragedy-different-scripts-by-walden-bello
翻訳 喜多幡佳秀 (ATTAC関西グループ)

2010年10月30日土曜日

IMF、ハイチの債務をやっと帳消し(新しい債務のオマケ付き)

2010年7月27日
ディック・ディアデン、ジュビリー・デット・キャンペーン

先週やっと、国際通貨基金(IMF)は、ハイチがIMFに対して負う全債務の帳消しを発表した。

この帳消しにより2億6800万ドルの債務負担が一掃されることになる-これでハイチが未だ抱える債務のうち、最大の部分が消えることになる。

この帳消しはハイチ債務帳消しのために新しく創設されたPost-Catastrophe Debt Relief Trust Fund(大災害後の債務救済信託基金)を通して実施される。この基金はその他の災害に見舞われた重債務低所得国にも適用可能である。

この基金は既存の債務救済基金でまかなわれ、2011年末までゼロ金利で(債務危機に対応してすでにそう発表されている)、その後は0-0.5%で運用される。

しかし、より懸念されるのは債務帳消しの発表の同日、IMFがハイチと交わした新融資契約である。

これは6千万ドルという低利息の小額融資で、ハイチが外貨準備金を増やすためにIMFの拡大信用供与ファシリティ(ECF)の枠内で申請していたものである。

この準備金積み増し政策により、ハイチは巨額の海外援助が流れ込むことで為替レートが変動するのを防ぐことができる。

しかし、外貨準備が必要になるのはどうやら遠い先のことになりそうだ。今年初めには50億ドル(長期的には100億ドル)の援助を公約していた各国政府が、いまだわずかな額しか実施していないからだ。ブラジル一国のみが、公約通り5500万ドルを全額支給したと伝えられている。

小額融資とはいえ、このIMFの新プログラムには条件がついている。契約文書は公開されていないが、それらの条件には「マクロ経済の安定」(インフレ抑制政策を含む)と「財政管理の強化」(とりわけ注目すべきは「ハイチ共和国中央銀行の独立促進」)が含まれている。

加えてIMFは、ハイチが「民間信用供与と投資」の育成ができるよう、技術協力プログラムを立ち上げた。これにはハイチの国内市場でより容易に貸借できるようにすることが含まれている。

今までのところ、この技術協力は、ポール・コリアーが立ち上げたプログラムと非常によく似ている。彼は米国の「ハイチ復興プラン」を作成した。コリアーは、ハイチの復興は低コスト労働の繊維産業発展(一般にスウェットショップと呼ばれるものだ)と観光業に基づくべきであると信じている。

しかし、ハイチのキャンペーナーが明確に把握しているように、何世紀にもわたる搾取を通して国際社会に貸しがあるのは実はハイチの方なのだ。

カナダの活動家集団「ハイチから略奪された賠償金返却委員会(略称CRIME)」は2週間前、フランス政府関係者に成りすまし、「フランス政府は19世紀にハイチに巨額債務(奴隷蜂起でハイチが独立したことで損害賠償をフランスが請求し、それが巨額債務となってハイチ経済を圧迫した:訳注)を押し付けたことによる負債210億ドルを返済します」と虚偽の記者会見を行った。

彼らはフランス政府からの訴えるという脅しにも関わらず、活動を続けると明言している。

原文 http://www.eurodad.org/whatsnew/articles.aspx?id=4208
翻訳 大倉純子 債務と貧困を考えるジュビリー九州

債務と国の収奪:ハイチのいま

大倉純子(債務と貧困を考えるジュビリー九州)

今年〔2010年〕1月13日に発生した地震により30万人とも言われる死者を出した中米の国ハイチ。

ハイチは前年7月、HIPCsイニシアティブ下の厳しい構造調整の末12億ドルの債務帳消し決定を受けたものの、その時点で未だに10億ドルもの債務を抱えていました。HIPCsの債務帳消しは一定の期日(カット・オフ・デート、ハイチの場合は2004年)以前の債務しか対象にならず、その後の新規債務は帳消しされません。

これらの債務も無条件即時帳消しにしろという声が国際社会に巻き起こりました。債務の大半は多国間金融機関(IMFなど)に対するものでした。AVAAZ、CARE2など何百万人もの会員を擁するウェブ署名サイトの協力もあり、国際的な圧力の前に、3月にはIDB(米州開発銀行)、5月にはIDA(世界銀行・国際開発協会)がそれぞれハイチ債務全帳消しを発表しました(IDBは4億7900万ドル、IDAは3600万ドル)。

今回ご紹介するのは最後に残されたIMF(国際通貨基金)が7月21日、ようやくハイチ債務を帳消したという記事です。しかし、ハイチを巡る状況はそれで「めでたし」どころか、ますます混迷の度を深めているようです。

地震後半年を経たハイチの状況をDemocracy Now!が精力的にレポートしています(注1)。それによると国内の様子はほとんど改善されていません。地震直後から復旧作業のため駐在していた米軍や日本の自衛隊は6月と8月にそれぞれ引き上げましたが、首都ポルトーブランスでさえあちこち瓦礫が放置されたまま、その下の何千という遺体もそのままです。被災した150万人のほとんどがいまだ国内1300ヶ所の難民キャンプでテント住まい(あるいはテントさえなくタープ内で数家族同居)。

台風シーズンが迫っているのに暑さと雨でテントには裂け目ができています。さらに驚くべきことには、ちゃんとした住宅どころか仮設住宅の建設の目処さえ立っていないのに、難民キャンプが建っている私有地の地主たちが難民たちの追い立てを始めているというのです。時には警察や国連軍がテントの打ち壊しをすることもあるそうです。

キャンプは衛生面でも困難を抱えていますが、暴力沙汰も増えており、特にレイプなど女性に対する暴力がますます深刻になっています。それに対して警察は全く動こうとせず、特別に派遣された国連女性部隊はバングラデシュ人で、現地の人々の言葉(クレオール語、あるいはフランス語)が話せないので問題が正確に把握されていないようです。結局、女性たちが自衛グループを作り、危ない目にあった時に吹く笛を配って対処しています。活動家は、この問題の解決には少しでも安全な住居を一刻も早く整備するしかない、としています。

今年3月、モントリオールでの支援会合で国際社会は53億ドルの支援を表明しました。ところが半年後、実際に拠出したのはわずか4カ国(ブラジル、ノルウェー、エストニア、オーストラリア)、額にして全体のわずか2%。被災した人々は、これから先自分たちの生活がどうなるか全く知らされない、「巨額支援」と聞くがそれが一体どこに消えているのか全く実感できない、という状況にフラストレーションを高めています。その中でプレバル大統領が「金は政府には来ていない、国際NGOが握っている」と発言したことから、人々の怒りの矛先が国際NGOに向けられているということです。

では、国際社会が約束した支援金が支払われたら、あるいはその他の支援が滞りなく届けば、ハイチは本当に人権・民主主義・平和が守られる国になるのでしょうか。

モンサントは今年5月、Maxim XO(殺菌剤)やチラム(殺虫剤)といった猛毒の農薬がどっぷり処方された野菜の種子475トンを「プレゼント」しました。これらは一代限りのハイブリッド種子で、GMO(遺伝子組み換え)種子と同様、大量の水、化学肥料、農薬を必要とし、一旦利用すれば農民は毎年モンサントから種子を買わなくてはなりません。モンサントは最初、GMO種子を送ろうとしたが農業省に断られ、ハイブリッド種子に切り替えたそうです。この「支援」はUSAID(米政府の国際援助機関)によるWINNER(ハイチ支援)計画の一環として行われました。現地の小農民運動はこの種子を焼き捨て、「これは第二の地震だ。小農民、生物多様性、クレオール種子(次世代育成が可能な現地作物)、ハイチの環境への強力な攻撃だ。モンサントとアグリビジネスはハイチを再び奴隷植民地にしようとしている。」と非難しています。

これまでも大量の食糧援助や、補助金つきで生産され安価に流れ込む米国産作物ゆえに、農民が自活できる価格で作物を市場に出すことができず、田畑を捨てて都市のスラムに流れ込むということが起きてきました。国民の60-80%が農民という国でこれは大変な事態です。食料主権という国の生殺与奪が完全に外国に握られようとしています。

ビル・クリントンが議長を務めるハイチ再建暫定委員会が今後の復興の道筋を決めることになっていますが、委員会のメンバーの半数は米・仏・加など外国の政府代表や国際金融機関、残る半数の国内メンバーにはレジナルド・ボウロス(Reginald Boulos)など過去のクーデターの立役者たちが参加しています。アリスティド大統領が所属する政党(Lavalas Party)は2009年以降、活動が禁止されていますが、次の大統領選に関しても活動禁止継続が決定しています。

人権・社会活動家は、これは過去のクーデターと同じ面子による武器なきクーデターだと証しています。彼らは議会から権限を委譲され、一般国民にはなんら話し合うことなしに復興計画を決めていきます。ほとんど外部からの支援が届かぬ中、人々は驚異的な忍耐力でコミュニティを立て直そうとしています。社会活動家は、その人たちに希望を見出す一方で、このままいけば、その人たちの努力や希望とはまったくかけ離れた、ハリバートン、ブラックウォーター、ダインコープ(DynCorp)などお馴染みの多国籍企業の元での「復興」になるだろうと危惧しています。

国内エリートもしっかりおこぼれを頂戴し、復興工事契約の15%は国内企業が取る約束になっているそうです。委員会メンバーやその仲間たちが持つ土地を利用した復興計画を、同じ人たちが関わる企業が受注するわけです。住宅に最適な土地は工場や贅沢なマンション、オフィスビル用地として取り置かれ、環境の悪い土地が住宅用地として人々に売却されようとしています。

再建暫定委員会が経済復興と人々の生活支援策として考えているのが優遇関税措置を受けたスウェットショップ(劣悪な環境の工場)の増設です。地震の前から人々の主な働き先はスウェットショップでした。賃金が低すぎるためにちゃんとした住宅に住めず、屋上屋を重ねるように斜面に家を密集させて住んでいたことが地震の被害を増大させたのです。

地震前から続くこのハイチの政治的混迷の種は200年前、独立時に撒かれました。25年に渡る戦いの末、1804年ハイチは世界初のアフリカ系奴隷の国として誕生しますが、国際社会から支援を受けることができず、宗主国だったフランスに1億5千万ゴールドフランの賠償金を支払うことを約束させられてしまいます。これは後に9千万ゴールドフランに減額されますが、ハイチは1947年までこの返済を続けました。この巨額の借金返済のために国の経済は最後まで安定せず、これに加えて米国など外国の干渉が、真の民主国家構築を阻んできました。

巨大地震という国家の存亡の危機にあたり、フランスは不当に請求したこの金(現在価格で220億ドルともインフレ加算で400億ドルとも)を返済しろ、という声が高まっています。今回掲載した原稿ではCRIMEというカナダ、米国、フランスの市民運動がフランス政府高官に成りすまして「フランス国家はこのハイチに対する“債務”を全額返済します」とウソの記者会見を行ったアクションに触れています。またアルジャジーラ報道によるとノーム・チョムスキー、ナオミ・クラインを含む複数国の著名人、ジャーナリスト、政治家たちがこの「債務」を返済するようサルコジ大統領に要請書を送ったそうです。

この「不当な債務」返済運動は「先進国発」で始まったものではなく、1853年、スールーク皇帝の時代からハイチ人自身が繰り返し「支払い拒否」や「返済要求」を起こしています。一番最近では2003年にアリスティド大統領が不当支払い金返済の訴えを起こしましたが、1年もたたない2004年、米・仏・加の共謀で彼は南アフリカに連行されてしまい、この訴えは反故にされてしまいました。

フランスはこの「不当利得返済」を認めることを断固として拒否しています。しかし、ハイチの行く末をハイチ人の手に取り戻すには、外国から奪われ続けてきたこの国の歴史自体をきちんと精算しなければならないと思います。

注1
いかに西側支配がハイチが天災から回復する力を損なってきたか
http://writeoff.blog.shinobi.jp/Entry/41/

◎参照サイト
外務省:わかる!国際情勢vol.63 ハイチ大地震を乗り越えて(2010年9月3日)
http://www.mofa.go.jp/mofaj/press/pr/wakaru/topics/vol63/index.html
IMF(国際通貨基金)ハイチ債務帳消し
http://www.imf.org/external/np/sec/pr/2010/pr10299.htm
IDB(米州開発銀行) ハイチ債務帳消し
http://en.rian.ru/world/20100322/158281157.html
IDA(世界銀行・国際開発協会)ハイチ債務帳消し
http://web.worldbank.org/WBSITE/EXTERNAL/COUNTRIES/LACEXT/HAITIEXTN/0,,contentMDK:22595789~menuPK:338184~pagePK:2865066~piPK:2865079~theSitePK:338165,00.html
Post-Catastrophe Debt Relief Trust Fund(IMF:大災害後の債務救済信託基金)http://www.imf.org/external/np/exr/facts/pcdr.htm
パリクラブ:他の二国間債権者にも帳消し呼びかけ(パリクラブは09年8月に2億1400万ドルの帳消し決定)
http://www.clubdeparis.org/sections/actualites/haiti-20100119/switchLanguage/en
USAID(米政府国際援助機関)によるハイチ支援
http://www.usaid.gov/helphaiti/
「フランスはハイチへの貸しを返済せよ」(アルジャジーラ記事)
http://english.aljazeera.net/news/europe/2010/08/201081614920360923.html
デモクラシー・ナウ!フランス政府、ハイチ賠償返還のニセ記者会見で法的措置に出ると脅し
DN! France Threatens Legal Action over Haiti Reparations Hoax
http://www.youtube.com/watch?v=OMCd5TmsPOM
http://www.democracynow.org/2010/7/16/headlines#8
PRESS RELEASE 7/30/2010
French Foreign Ministry Attaché: Activists will "pay" for Haiti prank
CRIME responds to new threats
http://www.diplomatiegov.info/rubrique.gb-14-07-2010.html
French Government Unmasked at Montreal Press Conference
http://canadahaitiaction.ca/node/486
その他Democracy Now! ハイチ関連報道多数
http://www.democracynow.org/search/haiti/1
モンサントからハイチや毒薬のプレゼント、モンサントはハイチの「新たな地震」
(Monsanto's Poison Pills for Haiti Monsanto: Haiti's "New Earthquake"
http://www.huffingtonpost.com/ronnie-cummins/monsantos-poison-pills-fo_b_587340.html
ハイチ農民、モンサントの寄付を拒絶
(Haitian Farmers Reject Monsanto Donation)
http://www.foodsafetynews.com/2010/06/haitian-farmers-burn-monsanto-hybrid-seeds/

2010年10月28日木曜日

「カネは天下の回りモノ・・・じゃない」 『でっと ばい』 第四号 p.2

※"でっとばい"第四号の各原稿を分けて掲載しています。『でっと ばい』 第四号PDF版はこちらからダウンロードできます。




「カネは天下の回りモノ・・・じゃない」
喜多 幡佳秀(ATTAC関西グループ)

 「フォーカス・オン・ザ・グローバル・サウス」のワルデン・ベリョさん(フィリピン上院議員)は、新自由主義が席巻する世界経済を「南」の視点から一貫して鋭く批判してきた。今号に掲載した「ギリシャ:1つの悲劇の2つの脚本」は、2008年のリーマン・ショックを契機とする世界経済危機と、2009年末から2010年前半にかけてのギリシャ危機が、同じ原因で起こっているにもかかわらず、大手メディアでの報道のされ方が対照的であることを指摘している。


 2008年に銀行・金融機関が破綻に瀕し、各国政府が莫大な公的資金を投入したとき、ウォールストリートへの怒りと共に、金融に対する規制が叫ばれた。ところが、今や大手の銀行・金融機関は復活し、各国の財政赤字に着目し、国債を新たな投機の対象として、緊縮政策を取らない国の国債に襲いかかっている。

 EUのギリシャ「救済」策が発表された5月は、大きな転機となっている。ドイツ政府は5月に、国債の空売り規制を発表した。その翌日にユーロが急落した。ロイターは次のように報じている。「金融規制強化に関しては、欧州の構造問題の解決を優先すべきとの声が市場では大勢だ」。これ以降、「欧州の構造問題の解決=財政再建」という一斉キャンペーンが展開され、6月25-27日にカナダで開催されたG8/G20サミットは「財政再建」一色となった。

 日本でも、参議院選挙に向けて菅首相が消費税増税を言い出し、「このままでは日本はギリシャのようになる」と絶叫した。ワルデン・ベリョさんが指摘しているように、「ギリシャのようになる」というのは、これまでIMFや世界銀行が「南」の諸国に押し付けてきた構造調整政策(SAP)と同様のことが、「北」の諸国でも起ころうとしているということだ。

 ところで、ビルゲーツが世界の大富豪たちに、財産の半分を慈善事業に献金しようと提案したという報道がある。すでに38人が賛同し、総額2000億ドルの拠出が約束されている。(注1)

 この金額にも驚くが、もっとすごいデータがある。メリルリンチとキャップジェミニ(投資調査・コンサルタント会社)が世界の大富豪についてのレポートを発表している。「2010 World Wealth Report」というタイトルで、日本語・要訳版もウェブに公開されている(注2)。居住用不動産、収集品、消費財および耐久消費財を除いて100万米ドル以上の投資可能資産を保有する「富裕層」は、2009年末までに、2007年末の水準に回復したという。世界の富裕層人口は17.1%増加し約1000万人になり、その保有資産の合計は約39兆米ドル(18.9%増)に回復した。この金額は、上位8カ国のGDPの合計に近い!

 もう1つ注目しておくべきことは、現在、米国の企業は過去最大水準の1.8兆ドルの現金を抱えていながら、雇用創出につながる設備投資を手控えているという事実である。

 金はあるが必要なところには回らない、ここにすべての問題がある。



(注1)http://www.care2.com/causes/trailblazers/blog/40-billionaires-pledge-to-give-most-of-their-wealth-to-charity/
(注2)http://www.muml-pb.co.jp/CompanyInfo/pdf/2010_06_23_J.pdf

2010年10月17日日曜日

でっと ばい Debt Bye! 第四号 特集:欧州危機

▼[でっと ばい Debt Bye! 第四号をダウンロード!] (PDF)






▼第四号の内容

 ・巻頭言:カネは天下の回りモノ・・・じゃない
 ・ギリシャ 1つの悲劇の2つの脚本
 ・ギリシャ民衆との連帯:欧州attacの声明
 ・債務に耐え得るかどうかの議論が始まる
 ・欧州の先駆者ハンガリー
 ・金融危機を根本的に解決する8つの提案
 ・ハイチの今:債務と国の収奪
 ・IMF、ハイチの債務をやっと帳消し
 ・パキスタン洪水被害と債務そして日本
 ・洪水と債務:二重のくびきにあえぐパキスタン
 ・CADTMパキスタンの戦略キャンペーン

 ※"でっと ばい Debt Bye!"は債務帳消し問題を扱うニューズレターです。自由にダウンロードしてご利用いただけます。(※利用条件など

2010年5月12日水曜日

でっと ばい Debt Bye! 第三号 特集:COP15/エコロジカル・デット

▼[でっと ばい Debt Bye! 第三号をダウンロード!] (PDF 11メガバイト)







▼第三号の内容
・前書きに変えて COP15における気候債務と気候正義運動
・クリマフォーラム'09宣言 要約
  「気候を変えるな。システムを変えろ」
・ナオミ・クライン(著述家・ジャーナリスト) スピーチ
  「地球の運命は、気候正義を求める大衆運動にかかっている」
・エボ・モラレス(ボリビア大統領)記者会見
  「戦争に数兆ドルを費やす西側諸国が気候変動に100億ドルしか拠出しないのは恥ずべきことだ」
・エボ・モラレス インタビュー
  「気候債務、資本主義、なぜ気候正義法廷を求めるかを語る」
・社会運動による共同声明
  「ポスト・コペンハーゲンの気候変動緊急事態にいますぐ行動を!」
・「債務、貧困、資源の呪い」
・ポール・マッカーティン(カトリック聖コロンバン会)
  「ハイチ大地震から債務帳消しを考える」


 ※"でっと ばい Debt Bye!"は債務帳消し問題を扱うニューズレターです。自由にダウンロードしてご利用いただけます。(※利用条件など

2010年4月30日金曜日

ハイチ大地震から債務帳消しを考える

マッカーティン・ポール(カトリック聖コロンバン会)

今これを書きながらインターネットのラジオにハイチの地震とハイチの人々の苦しみの話を聞いている。大変だ。債務のことがアメリカ、ヨーロッパなどのメディアによく取り上げられている。取り上げられているのはハイチの地震のせいだ。

ハイチも債務を抱えている。ハイチは2009年に利子だけで50億円も払った。世界で最も貧しい(貧しくさせられた)国の一つであるハイチが利子だけで50億円も払った。ひどい!憤る!ハイチ復興のため、まず債務を帳消ししなければならないと多くの人々も団体も叫んでいる。台湾とベネズエラは債務帳消しを検討するとしている(ベネズエラは帳消し)。債務返済にお金を回していたことから、地震に耐える丈夫なビルなどをたてることができなかったと考えられる。

多くの国々で人々はハイチのため募金活動している。芸能人やミュージシャンもコンサートを開いている。あるコンサートでは57億円の募金を集めたそうだ。しかし債務を帳消ししないとハイチに送ったお金は債務返済に回される可能性がある。つまり、ハイチの人々を助けないかも知れない。右手であげて、左手でとる、というふうに。

地震の直後、大型豪華客船がハイチのプライベートビーチに寄航した。近くではハイチの人々が苦しんでいる時に、よく遊べるものだという議論が起こった。船会社は困った人々に食料品、薬などを運ぶからと弁明した。食料品、薬などを運べば貧しい国のプライベートビーチで遊んでいいのだろうか。私は疑問を持つ。

豊かな国々(私たち)は貧しい国々から債務返済としてお金や資源などを奪っているから豊かなのではないか。お金が余っているから豪華客船に乗れるのではないか。飛行機で海外に行くのが当たり前と思っている私たちは、二酸化炭素を排出して温暖化を起こして環境も破壊している当事者でもある。生活の仕方を考え直す必要がある。

カトリック聖コロンバン会 債務ニュースより抜粋転載