2010年11月4日木曜日

「ギリシャ 1つの悲劇と2つの脚本」 2010年7月17日 ワルデン・ベリョ(フィリピン下院議員)

※"でっとばい"第四号の各原稿を分けて掲載しています。『でっと ばい』 第四号PDF版はこちらからダウンロードできます。




「ギリシャ 1つの悲劇と2つの脚本」
 2010年7月17日 ワルデン・ベリョ(フィリピン下院議員)

 アテネのカフェには人があふれ、今も観光客の群れはパルテノン神殿を訪れ、伝説をたたえたエーゲ海の島めぐりに繰り出す。しかし、夏の装いの下には、混乱と怒りと絶望が満ちている。この国はこの数十年で最悪の経済危機に落ち込んでしまった。
 世界のメディアはギリシャあるいは「小ギリシャ」を世界金融危機の第2段階の震源地とみなしている。第1段階の「グラウンド・ゼロ」がウォール街であったように。
 しかし、この2つのエピソードの語られ方には興味深い違いがある。

矛盾する2つの物語
 規制を解かれた金融機関の活動が、複雑きわまる金融証券を発明し、魔法のように儲けを生み出し、その結末としてウォールストリートの崩壊をもたらし、最後には世界金融危機へと変身した。
 ところが、ギリシャの場合、物語はこのように語られる:この国は財力に見合わない福祉国家を建設するために返済不能なほどの債務を積み上げてきた。今やこの浪費家はベルト締め直す必要がある。ブリュッセル[EU]とベルリンと銀行家たちは、不機嫌そうなそぶりをして、この地中海の快楽主義者たちに苦行を与えるピュリタンである。この者たちは収入以上の暮らしをし、2004年に莫大な費用をかけてオリンピックを開催するなどの虚栄の罪を犯したのだ。
この苦行はEUとIMFの緊急支援計画という形で与えられる。それは付加価値税の23%引き上げ、定年の65歳への引き上げ、年金と公務員賃金の大幅削減を行うと、雇用安定のための措置の廃止を伴う。これらの政策の表向きの目的は、福祉国家を抜本的にスリム化し、甘やかされてきたギリシア人たちが収入に見合った生活をするように導くことである。
 「福祉国家」の物語はいくつかの断片的な真実を含んでいるが、根本的な欠点がある。ギリシャの危機は、基本的には、ウォールストリートの崩壊をもたらしたのと同じ原因から起こっている。つまり、金融資本が無分別に大量の信用を提供することで利益を得ようと猛進してきたことである。ギリシャ危機はカルメン・ラインハルトとケネス・ロゴフの著書「This Time is Different: Eight Centuries of Financial Folly(これまでとは違う:8世紀にわたる金融の愚行)」で追跡されているパターンと一致している。猛烈な投機的融資の一時期のあとには、容赦なく国債や政府保証債(ソブリン債)のデフォルト(債務不履行)またはそれに近い危機が起こる。1980年代初めの第三世界の債務危機や1990年代末のアジア金融危機と同様に、ギリシャ、スペイン、ポルトガルをはじめヨーロッパ各国で起こっているいわゆるソブリン債の問題は、基本的には[資金の]供給側の問題によって起こった危機であり、需要側の問題ではない。
 ヨーロッパの銀行は、融資による利益を増やすために、現在ヨーロッパで最も深刻な問題を抱えているアイルランド、ギリシャ、ベルギー、ポルトガル、スペインに2.5兆ドル(推定)を注ぎこんだ。ドイツとフランスの銀行がギリシャの4000億ドルの債務の70%を保有している。ドイツの銀行は米国の金融機関から大量のサブプライム証券を購入していたが、同じ無分別さでギリシャ政府債を購入していた。国際決済銀行によるとフランスの銀行はギリシャへの融資を23%増やし、スペイン、ポルトガルに対しても融資をそれぞれ11%、26%増やした。
 興奮に包まれたギリシャの金融の舞台に登場した役者はヨーロッパの金融機関だけではない。ウォールストリートの大物、ゴールドマンサックスはギリシャの金融当局に対して、 金融派生商品(デリバティブ)を使ってギリシャの巨大な負債を隠す方法を教えた。ギリシャへの融資を増やすことを検討している銀行家に対して国家財政の状態を粉飾するためである。次に、この同じ銀行が、ギリシャがデフォルトに陥ることに期待して「クレジット・デフォルト・スワップ(CDS)」と呼ばれるデリバティブに関与した。その結果、ギリシャ政府が銀行から借り入れるためのコストは上がったが、銀行は大きな利益を得た[1]
 グローバル金融によってもたらされた危機というものがあるとすれば、ギリシャこそまさにその真っ只中にある。

物語の改ざん
 ギリシャについて語られる物語が、銀行や金融投資家の無責任な行動の物語ではなく、収入以上の生活をする人たちへの戒めの説話にすり替えられたのは、主に2つの理由による。
 第1に、金融機関が危機についての叙述を自分たちの目的に役立つように、うまく改ざんしたことである。大銀行は今や、サブプライム債券を抱え込むことによって劣化した貸借対照表のひどい状態を深刻に憂慮しており、貸し出しを広げすぎたことを認識しつつある。彼らが貸借対照表の立て直しのために用いている主要な方法は、債務者を人質に使って新規の資金を獲得することである。この戦略の中心として、銀行は公的機関がもう一度、危機の最初の段階で行ったのと同様に、今度は救済基金と低金利での資金供給という形で彼らを救済するように圧力をかけている。
 ユーロ圏の主要国の政府はギリシャや他の重債務国がデフォルトに陥るのを許容しないということを銀行は確信していた。そのようなことはユーロの崩壊につながるからである。
 銀行は、市場でのギリシャの評価が下がりギリシャ政府の借入コストが高くなればユーロ 圏の政府は救済策を講じるということを知っていた。救済策の大部分は、自国のギリシャへの債権を回収するために使われる。ユーロ圏の主要国の政府とIMFによってまとめられ、ギリシャ救済計画として宣伝されている1100億ユーロの救済策の大部分は、銀行を自分たちの無責任で野放図な過剰融資の結果から救済するために使われるだろう。
 銀行と国際金融機関は、1980年代の第3世界の債務危機の際に発展途上国に対して、また1990年代のアジア金融危機の際にタイとインドネシアに対して「信頼性のゲーム」をしかけたが、この使い古されたゲームがそのまま再現された。「北」の銀行や投機筋による猛烈な融資のあとに、今回と同じ緊縮政策(当時は「構造調整計画」と呼ばれていた)が導入された。同じシナリオが同じように演じられた。「収入以上の生活をしていた」という言い方で、犠牲にされた人たちに責任が転嫁された。政府機関は現金の先渡しによって金融機関を救済した。そして人々には、その現在および将来の収入の多くの部分を融資機関への支払いに充てることを確約させることによって、債務の完済という途方もない負担を押し付けた。
政府機関がスペイン、ポルトガル、アイルランドに過剰融資している銀行を救済するために、同様の巨額の救済策を準備していることは間違いない。

責任転嫁
 ギリシャや他の重債務国の場合に「収入以上の生活をする人たち」についての説話が持ち出されるもう1つの理由は、世界経済危機が始まってから市民や政府の間で強まっている金融規制強化への圧力をかわすことである。銀行はケーキを食べたあとにするはずだった宿題をしなかった。彼らは危機の最初の段階で政府からの救済基金を確保したが、政府がその条件として国民に約束した金融規制の強化を受け入れなかった。
 金融危機の最初の段階で、米国、中国からギリシャに至るまで各国の政府は、大規模な景気刺激策によって実体経済の崩壊を食い止めようとした。銀行や金融機関は、この大規模な財政支出にスポットライトを移動し、あたかも世界経済の主要な問題が規制のない金融活動ではないように描く物語を広めることによって、厳しい規制の導入を未然に阻止しようとしている。
 しかし、これは危険な火遊びである。すでにノーベル賞受賞者のポール・クルーグマンや他の人たちが警告しているように、もしこの物語が思惑通りに展開され、新しい経済刺激策も厳しい銀行規制も導入されなければ、全面的な恐慌に至らないまでも、非常に深刻な不況が起こるだろう。残念ながら、最近のトロントでのG20会合が示しているように、ヨーロッパと米国の政府は、目先の利益を最優先する銀行が設定したアジェンダ(課題)に追随している。彼らは国家の積極的介入が根本的な問題であると主張する懲りない新自由主義イデオローグたちの支持を受けている。これらのイデオローグたちは、深刻な不況あるいは恐慌すら、経済が安定を回復するための自然なプロセスであり、経済の崩壊を回避するためのケインズ主義的な財政支出は、この必然的なプロセスを遅らせるだけだと考えている。

抵抗:流れを変えることはできるのか?
 ギリシア人はこのすべてを黙って見ているわけではない。7月8日に、ギリシャ議会でのEU・IMF協定の批准に対して大規模なデモが行われた。その前にも、これよりはるかに大規模なデモが行われている。5月5日にアテネで40万人がデモに参加した。これは1974年に軍事独裁政権が倒れて以降の最大のデモだった。しかし、街頭デモがEU・IMFのプログラムの実施に伴う大規模な社会的災禍を回避するためにできることはごく限られているようだ。2010年に経済は4%縮小すると想定されている。議会内の左派連合シナスピスモスのアレクシス・チプラス委員長によると、この2年間に失業率は15%から20%に上がり、若者の失業率は30%に達すると予想される。
 貧困の問題について言えば、最近のカパ・リサーチとロンドン・スクール・オブ・エコノミクスの共同研究によると、現在の危機が始まる前でさえ、ギリシャの1100万人の人口のうち3分の1が貧困ラインに近い状態で生活していた。このような「国内の第3世界」を生み出しているプロセスは、EU・IMFの構造調整プログラムによって加速されるだろう。
 皮肉なことに、この構造調整はジョージ・パパンドレウが率いる「社会主義政権」によっ て推進されている。彼は昨年10月に、それまでの保守政権の腐敗とその経済政策の悪影響と決別することを期待する票を集めて選挙に勝利したのである。パパンドレウの党PASOK(全ギリシャ社会主義運動)の中でさえEU・IMFの計画に対する抵抗があることを、党のポーリーナ・ラムサ国際部長は認めている。しかし、党の国会議員団の間では、かつてマーガレット・サッチャーが言った有名な格言、TINA(「ほかに方法がない」)が圧倒的多数の感覚となっている。

従順の代償
 EU・IMFの計画がもたらす荒廃を前に、ギリシアではデフォルトの脅しを使うという戦略や債務の一方的な大幅削減が話題になることがますます多くなっている。チプラス委員長は、そのような方法をポルトガル、スペインなどの重債務国と連携して導入することも考えられると言う。この点についてはアルゼンチンをモデルにすることができるかも知れない。アルゼンチンは2003年に、債権者に対して1ドルにつき25セントのみを返済するという大胆な債務削減を行った。アルゼンチンは債務削減に成功しただけでなく、これまでなら債務返済のために国外へ流出していた資金を国内経済へ還流することができ、2003年から2008年の平均10%の経済成長が可能になった。
 確かに「アルゼンチン方式」には多くのリスクがある。しかし、IMFに従順に従ったらどうなるかは、IMFの構造調整計画に従った国の記録を調べれば痛々しいほど明白である。
 フィリピンは、毎年の国家予算の25〜30%以上を外国の債権者への支払いに優先的に充当することによって、1980年代半ばに10年に及ぶ停滞を経験し、その後も回復していない。その結果、継続的に貧困状態にある人の割合が30%を超えている。メキシコは過酷な構造調整政策によって締め付けられ、20年に及ぶ継続的な経済危機に追い込まれ、その1つの結果として麻薬取引が広がり、国家の機能が脅かされるにいたている。タイの現在の階級間戦争と形容される状態も、1つの背景には10年前にこの国に導入されたIMFの緊縮政策による経済的打撃の政治的影響がある。
 ギリシャに対するEUとIMFの構造調整計画は、危機の真只中にある金融資本主義にとって、もはや南と北の違いは大きな問題ではないことを示している。皮肉好きの人はギリシャに「第3世界へようこそ」と言うだろう。
 しかし、皮肉を言っている時ではない。今こそ、グローバルな連帯のための決定的な瞬間である。私たちはみな、この瞬間を共有しているのだ。


 
訳者注01: CDSとは、保証料を支払っておけばデフォルトした場合に損失金額を保証されるという契約。国債を持っていなくても、CDS契約をしておけば、国債の額面価額と時価(デフォルトによって二束三文となっている)の差額が手に入る。相沢幸悦、中沢浩志「2012年、世界恐慌」(朝日新書)p155より

原文 http://www.zcommunications.org/greece-same-tragedy-different-scripts-by-walden-bello
翻訳 喜多幡佳秀 (ATTAC関西グループ)

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