2014年5月15日木曜日

【でっとばい7号】トロイカ・ウォッチ(ニュースレターNO.1)

【訳者より】 欧州債務危機におけるトロイカとはIMF(国際通貨基金)、ECB(欧州中央銀行)、EU(特に欧州委員会)です。世界規模でいうトロイカ(IMF、世界銀行、WTO)とやってることは同じ。借金をカタに構造調整(緊縮財政による社会セクター破壊と公営企業の民営化を押し付けるが、その中で多国籍企業には最大限の便宜が図られる)を債務国に押し付けること。ATTACやCADTMも参加して、この欧州のトロイカの動きを監視するニュースレターができましたので、その第一号の翻訳をお送りします。原文では自己紹介が最後に来ていますが、読者の理解の一助となるかも、とこの翻訳ではその部分を頭に持ってきています。


原文 

私たちの正体とこのニュースレターの目的

 これはトロイカ・ウォッチのニュースレター第一号。このNLではこれから、トロイカに関する最新ニュース、影響を受けてる国の状況、反対意見や抵抗アクションの様子などをお届けしていきます。このニュースレターが闘う人たちの連帯と、緊縮政策への抵抗の強化に貢献できることを願っています。
 このニュースの編集グループのメンバーは、欧州社会フォーラム(European Social forum)、フィレンツツェ10+10(Firenze 10+10)、オルタサミット(Altersummit)、EU・イン・クライシス(EU in crisis)、ブロッキュパイ(Blockupy)といった集会で知り合った面々です。
 ブレトンウッズ・プロジェクト(Bretton Woods Project)、CEO、CADTM、TNIといった進歩的なNGOのメンバーやAttac 、ICANといったネットワークの活動家もいます。
 今後、月一、あるいは二回、英語、フランス語、ドイツ語、ギリシャ語、イタリア語、ポルトガル語、スロベニア語、スペイン語でニュースを発行する予定です。購読はwww.troikawatch.net/lists から、連絡は info@troikawatch.net にお願いします。
 それでは!アムステルダム、アテネ、ベルリン、ブリュッセル、フランクフルト、コペンハーゲン、リスボン、リュブリャナ、ロンドン、バルセロナ、セサロニキからのご挨拶でした!
トロイカ・ウォッチ・チーム

全体状況

 通常、年末はどこの国でも国会で次年度予算の審議採決が行われる時期です。ここ数年と変わらず、今年も多くの国で社会予算の大幅カットと民営化が予定されています。金融市場が喜びそうなニュースや、逆に金融市場でなにかうまくいってるというニュースも散見されますが、庶民への緊縮政策は今後も続行です。そしてこれは偶然ではなさそうです。
 ちょうどこのニュースが世に出るころ、アイルランドはトロイカの策定したプログラムからの卒業生第一号になっているでしょう。不幸なことに、一般の人々にとってこれは大した意味はありません。緊縮政策は引き続き行われるからです。アイルランドに倣おうとしているスペインやポルトガルの市民も、同じ目に遭うでしょう。緊縮によって危機から脱出できると信じている国が陥るのは、終わることなき永遠の緊縮政策です。
 目下のところ、トロイカが更なる緊縮を押し付けようとする一方で、各国政府は「これから明るい発展が待ってるよ~」と未来を粉飾しようとしてる(今の政策が続く限りそんな日が来るわけないのに)といった状況です。トロイカも各国政府も、本当に必要なことについては話し合おうとはしません。それは多くの国の債務を大幅に帳消しし(公的債務だけでなく、民間部門が抱える債務も)、公共サービスを復活させ、現在私たちが直面している、気候変動やエネルギー枯渇といった難問の対策に多額の資金投資を振り向けることです。
 トロイカの支配下に置かれた国々の状況をレポートすることで、いつかこの流れを変える運動が大きく育つ一助となれば幸いです。

ギリシャ

 トロイカがレビューのための使節団をギリシャに送っていた11月、次年(2014年)度予算見通しに関して大論争が起きました。トロイカが、次年度の赤字は政府見積もりを軽く10億ユーロは超えるという試算を出したのです。論争が続いている間に、ギリシャ議会はトロイカの承認抜きで予算案を可決しました。
 トロイカは、今後6ヶ月間はギリシャで政治危機を起こしたくない、そのためにすべての重要な決定を先延ばししようと、「特定経済政策条件に関する覚書」を使って圧力をかけようとしているようです。万一政治危機が起これば、かろうじて議会で多数派を保っている政府の力が失墜し、総選挙になる可能性があるからです。
 このような事態は、政治的に微妙な時期(欧州議会選挙)のEU議長国としての業務進行(ギリシャは6ヶ月間EU議長国を務める)に大きな支障となりえます。様々なイチャモンと、次期救済融資の実施に関する再交渉を来年(2014年)初めに延ばすと脅した後で、トロイカはやっと静かになり、12月10日を使節団をアテネに戻しました。
 更なる遅れと赤字は債務状況をますます悪化させます。なぜならこれらの問題の対策として、ギリシャは金融市場からの短期信用を増やすという形で資金を得るしかないのですが、その金利はトロイカからの救済融資の金利よりずっと高いのです。トロイカが要求する更なる政府支出削減によっても、ギリシャ政府がやっているような粉飾決算によっても、この国が危機から脱出することは不可能です。
 たとえトロイカが要求する更なる支出削減がなくても、来年(2014年)もまた多くのギリシャ人にとって大変な年となるでしょう。今年(2013年)末で、抵当に入っている民家の差し押さえ禁止令が失効しますが、この禁止令を更新するのか、するとしたらどのような形でするかでトロイカとの間に論争があります。
 失業率は政府発表で27%ですが、さらに多くのレイオフが予定されています。トロイカの要求を全部満たすために、ギリシャは来年(2014年)、さらに1万4千人の公務員をクビにすることに合意しています。
 多くの首切りが起こる大学や保健セクター、省庁でストライキが行われ、学校閉鎖で職を失う教師たちが抗議行動を繰り広げています。また、労働組合や学生たちによる抗議デモが11月のトロイカ訪問中、議会の予算決議前に起こりました。
 今年(2013年)のギリシャの冬は燃料費高騰で始まり、多くの人を悩ませています。北ギリシャでは燃料費が出せないために学校閉鎖が起こっています。多くの人が料金を払えず電気を止められ、木を燃やして家を暖めています。
 ここ数週間で、少なくとも3人が一酸化炭素中毒、または火事によるやけどで死亡しました。電気料金は2007年から59%上がりましたが、ギリシャのもっとも貧しい10%の人々の2012年の収入は2009年の半分以下でした。多くの都市で、市民不服従の一環として連帯委員会の人々が電気シェアリングを組織しています。

アイルランド

 この12月、アイルランドはトロイカとの合意から卒業する最初の国となります。それもこれ以上の予備的融資や保証なしで-これらはこれまで、救済合意から離陸する際には必須と思われていました。アイルランド政府は「自分たちは外からの援助なしでやっていける」というシグナルを大胆に発信する道を選びました。しかしこれは実態というより市場向けパフォーマンス。アイルランドはこれからも、トロイカ三組織からの改革要求をどれだけ実施したか、その“進捗”程度を6ヶ月ごとに審査される立場にあります(トロイカ合意の下では3ヶ月ごとに審査)。
 トロイカと政府は、市場復帰を果たすためのサクセスストーリー捏造に血道を上げていますが、市民生活の実情はサクセスからは程遠いものです。トロイカは、保健分野での支出削減が目標に達しなかったと政府を非難しています(削減目標6億ユーロ、実績は2億ユーロ)。
 2014年予算で、政府はさらに25億ユーロの赤字削減を計画していますが、保健分野は大幅切り捨てターゲットのひとつです。たとえば、アイルランドのメディカル・カード・システム(保持者は無料で治療が受けられる)の見直し-対象者削減-が計画されています。さらに、今は三日以上病欠で出ている手当てが、六日以上に延長されようとしています。
 危機勃発以来、失業者数はほぼ3倍、10万7千人から2 9万6千人へと増えました。公的債務は2010年のGDP比91%が2013年には121%へと増加しています。家計債務はGDPの200%、一方、借金の元となった住宅の資産価値は危機前の半分に下落しています。

ポルトガル

 アイルランド同様、ポルトガルも金融市場への復活を目指しています。そのために政府は喜んで高い代償を払おうとしています。12月はじめ、2014年と2015年満期の債務返済を三年間繰り延べすることを決定しました。このための追加支出は今後二年間で2億9千万ユーロに上ります。
 2014年度予算の政府支出削減は39億ユーロに上ります。これはポルトガルのGDPの2.3%に相当します。公務員の給与削減は2.5%(月給675ユーロ以上の者)から10%(月給2千ユーロ以上の者)に及ぶ一方、労働時間は週35時間から40時間へと増えています。
 さらに政府は月600ユーロ以上の年金を10%削減しようとしていますが、これはまだ憲法裁判所の承認待ちです。以前、憲法裁判所が同様の政策を違憲と判定したことがあったからです。庶民を苦しめるこれらの削減策の傍ら、企業は法人税削減の恩恵を政府から受けています。
 12月初め、ポルトガルは収益性のある公営企業である郵便事業の株の70%を市場公開しました。水道事業や国有鉄道TAPの民営化も企画されています。
 トロイカと政府の間では最低賃金と賃上げ交渉についての議論が進んでいます。トロイカは最低賃金の引き下げと、労働市場の更なる自由化を要求していますが、これはポルトガルの雇用主でさえ、国内需要がこれ以上冷え込むのを警戒して拒絶しているものです。政府は「トンネルの向こうに光が見えている」と言いますが、今年(2013年)9月の最新の統計ではポルトガルの国内需要は1.5%、投資は3.3%、消費は1.2%、それぞれ前年度の同時期に比べてダウンしています。
 予算決議の際には、政府の退陣を要求する大規模なデモが国会議事堂前で行われました。その一週間前には、警官が削減政策反対のデモを行い、郵政労働者が民営化反対のストライキを行っています。

キプロス

 トロイカから次の救済融資分を実施してもらうために、キプロス政府は国営企業の民営化計画を立てなければなりませんでした。それによって14億ユーロを捻出する予定です。この計画では、通信事業、電気事業、港湾事業が2016年6月末までに民営化されます。労働組合はこの計画に反対し、抗議行動を行っています。12月14日(2013年)には大規模集会が予定されています。

スペイン

 新しい「ツー・パック」規制(EU各国は議会での審議に先立って、欧州委員会から予算案を“承認”してもらわなくてはならない)(2013年5月30日発効:訳注)に基づく警告にもかかわらず、スペインは「EUの融資パッケージの条件であった改革はすべて完了したし、国内の銀行制度は著しく“改善”したので、残りの緊急融資は(入手可能であるにもかかわらず)受けなくてもいい」と主張しています。アイルランド同様、祝福すべき“卒業生”として、スペインは、EUからの緊急融資の75% (一兆ユーロ・パッケージのうちの410億ユーロ)が返済できるまで、6ヶ月ごとに、要求された改革の進捗程度をモニターされることになります。
 債務返済を市民の権利に優先してもいいという憲法修正(トロイカの後押しで、市民とのコンサルテーションなしに決定)の後、政府は公共セクターの民営化と基本的な市民サービス(教育、保健医療、社会サービス)の予算削減に着手しました。退職年齢は繰り上げられ、生活条件は悪化し、年金は凍結され、労働者の権利は低下させられています。
 スペインでは大規模な緊縮反対デモがここ数年行われており、市民社会はさまざまなアクションを組織してきました。
 たとえば、効果的に行われた住居からの追い出し阻止行動、債務監査、保健・教育分野での労働闘争、緊縮への大衆抗議と腐敗に対する法廷闘争です。それへの対抗として、政府は抗議行動を違法化する新法導入を計画しています(60万ユーロ以下の罰金刑)。

イタリア

 スペイン同様、イタリアも新しいツー・パック規制(欧州委員会が国家予算案を事前調査・分析する権利を持つ)により、予算案を練り直すよう欧州委員会から圧力を受けています。欧州委員会のレーン委員は、現在対GDP比0.1%に過ぎない構造調整による債務削減額を0.5%に増やす必要があると主張しています。レーン委員の見方では、政府の支出予算案ではイタリアの国家債務を早急に削減することは不可能、よってイタリアはEU「投資条項」に適合しないということになります(つまり同条項が認めている“いくつかの予算項目を赤字削減対処からは外す”ことができない。あらゆる支出が赤字削減の対象となる)。
 12月9日、何千という農民、トラック運転手、年金受給者、失業者が反政府・EUの立場から継続的に行われている街頭抗議行動に参加しました。デモ隊は線路内を歩いて列車をストップさせ、またトラック運転手はのろのろ運転と道路封鎖で交通をかく乱させるストを行いました。更なる抗議行動が予定されています。

スロベニア

 銀行セクターに大きな問題を抱えつつも、スロベニアはいまだなんとかトロイカの手を逃れようとしています。最近、銀行セクターのストレス・テストが行われました。このニュースが出るころには結果が出ているはずです。不良債権の額は79億ユーロ(GDPの約20%)に上ると見られています。
 しかし、スロベニアの中央銀行は「ストレス・テストの結果はすでにわかっている」と述べ、政府は自己資金だけで銀行システムへの資金注入が可能だと楽観的な姿勢でいます。これには47億ドルが必要となるだろうと言われています。

訳者による参照サイト
http://ec.europa.eu/economy_finance/assistance_eu_ms/greek_loan_facility/
http://euobserver.com/economic/121993
http://www.europarl.europa.eu/news/en/news-room/content/20130304BKG62046/html/Economic-governance-two-pack-background-note
http://www.jetro.go.jp/jfile/report/07001470/eu_economy_finance.pdf
http://www.central-tanshifx.com/market/market-view/sf-20131018-01.html
http://www.iol.co.za/business/international/italy-failing-to-cut-debt-quickly-enough-1.1616218#.Ut0HW_sReT8

 

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