2011年8月30日火曜日

ラホール:女性たちのメーデー

ブシュラ・カーリク(パキスタン・世界女性行進)

「パキスタンのインフォーマルセクターは、過去10年間で約20%の成長を遂げた。資本家階級による貧しい労働者、とりわけ女性の家内労働者の搾取を伴っていながら。インフォーマルセクターの労働者は、見えない存在で、攻撃を受けやすく、ブローカー、請負業者、下請け業者の思うがままである。何百万の労働者がインフォーマル経済に従事していて、彼らの賃金は恥ずべき低さである。政府はこれらの労働者に社会的保護を提供しなければならない。」

5月1日の国際労働者日を記念して、リーガル・チョウクの商店街で世界女性行進調整委員会によって組織されたメーデーのデモにおいて、演説者たちはこうした観点を表明した。

異なった地域からやってきた多くの女性活動家や労働者、そして市民社会の代表者がデモに参加した。デモ参加者は、インフォーマル経済の排除された労働者、とりわけ女性家内労働者、家事労働者、女性農業労働者への連帯を記したバナーやプラカードを掲げていた。彼らは、IMF、世界銀行、国際金融機関に押し付けられた政府の反労働者政策や狂信的で強まりつつある宗教原理主義に反対するスローガンを叫んでいた。主なスローガンの中には、「家庭内暴力をやめろ」「女性労働者の経済的搾取をやめろ」「女性に対する差別的法律を撤廃せよ」「帝国主義を打倒せよ」「国際金融機関と新自由主義を打倒せよ」があった。

デモ参加者はまた通りすぎる労働者の行進への連帯を表明しながら商店街を行進した。デモの最後に、世界女性行進全国要請委員のブシュラ・カリクがデモ参加者に演説した。女性労働者の問題に焦点を当てて、彼女は「民間投資家たちがこれらの労働者の犠牲の上に利益を倍増させることのみに関心を示している一方で、とりわけインフォーマル・セクターにおける女性労働者の権利がパキスタンで無視されてきており、労働の権利や他の社会的安全保障へのアクセスがないままに放置されてきた。パキスタンは、数多くの女性労働者が貧困と家計を支えるためにインフォーマルな家内労働に従事している発展途上国の一つである。」と述べた。2000万人を超えるパキスタンの女性が家内労働に従事している。彼女は、女性たちに自らの権利を求める組織された闘いのために団結することを強く訴えた。

インフォーマル・セクターの労働者の苦境に言及しながら、彼女は「彼らの経済への貢献度は60%以上であるにもかかわらず、インフォーマル部門の女性労働者は社会の中で最も基本的人権を保障されていないし、自らを労働者であると主張する権利も持っていない。彼らの1日の収入は、1日に12時間から16時間働いているという事実にもかかわらず、1ルピーから5ルピー(1ドル以下)にすぎない。彼らは、自らの労働について何らの社会的・法的認知も受けていない。孤立して働いているために、法律上労働者としての権利を有していない。この膨大な労働力は、請負業者や下請け業者、ブローカーの思うがままになっている。」と述べた。

最高裁判所の弁護士で社会運動家のラビヤ・バジュワは、政府の反労働者政策を批判した。彼女は「女性の団結がこの問題を解決する鍵である。毎年のメーデーで女性労働者が自分たちは労働者であること、自分たちを勘定に入れること、権利を与えることを政策決定者に伝えるために、国中で街頭に出よう。女性労働者は、消え去ったり、徐々に小さくなったりする傾向にはない。要求が実現するまで闘い続けるだろう」と呼びかけた。

女性権利活動家のルクサナ・ナズは、「女性労働者はベナジールの収入支援計画のもとで分配されるものを欲してはいない。彼女らは労働法のもとで労働者として認められることを望んでいるのだ。彼女らを認めよ。」と述べ、政府に対して、労働法の施行、最低賃金規定を満たす賃金、そして物価の引き下げを確約するように要求した。彼女はまた、パキスタンの労働者社会が直面する困難な挑戦についても言及した。

翻訳 寺本勉(アタック関西グループ)

パキスタン債務危機:戦争と債務、国家の統治権

高丸正人(債務と貧困を考えるジュビリー九州)

昨年、インダス川を襲った大規模な洪水により、2000万人が被災したパキスタン。対外債務に苦しむこの国は「テロとの戦争」に向き合いながら、国家の行く末を模索している。

援助と戦争

5月2日(アメリカ時間で1日深夜)、アメリカのオバマ大統領は緊急演説を行い、パキスタンに潜伏していた国際テロ組織アル・カイダの指導者オサマ・ビン・
ラディンを殺害したと発表した。今年の夏よりアフガニスタンからの撤退を開始するオバマ政権にとっては、対テロ戦争における目標を達成したという戦勝ムードの内に、アメリカ国民の同意を得た上、さらにこれから実施される米国防予算の大規模な削減への道筋を付けたと言える。

米議会調査局の報告書によると、アメリカがこの対テロ戦争において10年間に使った費用は1兆2830億ドルとなっている。その中にはパキスタンへの支援も含まれ、その額は180億~190億ドルである。米FOXニュースの報道では実際の額は207億ドルに上ると述べ、その内の142億ドルがパキスタンの軍事支出に対する支援であったと述べている。開発援助や災害・難民援助、食料・保健への援助は残りの65億ドルに過ぎなかった。

2001年9月11日にニューヨークで同時多発テロ事件が発生した後、パキスタンはその年の12月にはパリ・クラブにおいて対外債務の約3分の1に当たる125億ドルの債務返済繰り延べ(リスケ)を受けている。その際、日本政府は1998年のパキスタン核実験以降実施していた経済制裁を解除し、債務返済繰り延べの容認と新たな経済援助を行うことを約束した。

この時、当時の日本政府はパキスタンへのこうした支援に消極的であったが、パキスタン政府は対テロ戦争の最前線(front-line)に位置する同国への支援がアフガンを含むこの地域全体の安定につながる、と説得したとされる。

パキスタンは、もともとは大英帝国インド領の一部であり、植民地解放後にイスラム教のパキスタンとヒンドュー教のインドに分離した。その後、インドに対抗するために核開発を行ったパキスタンは世界から「ならず者国家」の烙印を押され経済状況も悪化した。911テロの後、対テロ戦争において重要な位置を占めることなったパキスタンは、その地理的な位置付けを自ら利用し、国際社会に対しパキスタンへの支援を呼び込んだのである。

この外交戦術は功を奏し、リスケの合意後からリーマン・ショックまでの期間において、パキスタンの対外債務は対GDP比において顕著な減少を続けていった。しかし、一方でアメリカの支援内容からも分かるように、国際社会の支援とは明確に「戦争」への支援であった。

リーマンショック後のパキスタン

2007年に世界金融危機が起こると、パキスタンは輸出が鈍るようになり、また原油・食料価格の高騰で貿易収支が悪化するようになった。それに併せ対外債務も増加の一途をたどり、債務不履行(デフォルト)の危機が迫りつつある。

IMFはパキスタンと緊急融資についての交渉を始めたが、IMFが提示する大規模な増税策や補助金カットと言った融資条件はパキスタン国内で非常に強い反発を受け、交渉は難航。結局、与党のPPPはこれらの条件を履行するための法案を国会で通すことができず、苦境に立たされている。オサマ殺害の後、パキスタン国内の対米感情が悪化し、治安上の懸念でIMFとの交渉は一時ストップし、5月中旬にドバイで交渉が再開された。交渉ではIMFが改めてパキスタンの財政赤字の削減を求めたが、パキスタン側は明確な見通しを示すことができなかった。一方、同国政府は来年度予算で、米軍撤退後の治安維持のために軍事費を10%以上も増加させることを表明している。

教育危機

現在、パキスタンの国家予算の60%は債務返済と軍事費に割り当てられている。債務危機と戦争のしわ寄せは子ども達に向けられている。

政府が発表したレポートによると、パキスタンの教育予算は2005年にはGDPの2.5%あったのに、現在では1.5%しかない状態にある。また、学校に通う子どものうち半数は文章が読めないという。2500万人の子どもが小学校に行けず、300万人は一生涯に渡り教育を受ける機会を得られないだろう、としている。さらには、国民の3分の1が2年以下しか学校に通っていない状態にあることも分かった。

このままでは、国連のミレニアム開発目標を達成できる見込みはない、とレポートは報告している。

洪水被災者への支援遅れる

昨年の7月にパキスタンのインダス川流域で発生した大規模な洪水に対し、国際機関や世界各国が緊急支援を表明した。しかし、イギリス議会報告によると、国連が提示した10億ドルの支援のうち、実際に支援として使われた額がその3分の2に留まっていると言う。

同様に、イギリスにおいても、表明した支援額に対し実際に支援として現地に届いている額が、その3分の1に留まっていることも明らかになっており、支援の遅れの実態が次第に明らかになっている。

支援が遅れている理由の一つは、実際に支援をする多国籍機関やNGOの数が非常に膨大で、資金の振り分けの調整に時間がかかっているためであると言われている。

一方、パキスタン政府による被災者への補償も少しずつ始まっているが、その補償額が最終的に一体いくらになるかに注目が集まっている。それによって被災者が自分の家を建て直せるかどうかが決まるからだ。しかし、この補償も資金の提供者となる世銀との交渉次第となっており、被災者の運命は世銀に握られた格好になっている。

国家の統治権を尊重すること

アメリカ軍によるオサマ・ビン・ラディン殺害事件がパキスタン政府に一切通告なしで実行された時、パキスタン元大統領のムシャラフ氏は、これをパキスタンへの主権侵害だと怒りをあらわにした。その後、パキスタン各紙でもパキスタンの統治権について様々な議論が交わされた。

これまで述べてきたように、パキスタンという対外債務に苦しむ最貧国一歩手前の国家は、あらゆる点においてアメリカや国際機関と言った存在に干渉を受けざるを得ない現実に晒されている。パキスタン人が自分の国の統治権を疑うのも無理のない話である。

パキスタンが、国家予算の大部分を占める対外債務支払いや戦争という問題を解消できれば、自らの統治権により国家を再建する道筋は開かれるものと考えられる。現在のパキスタンはPPPという民主的な政党により統治される国家であり、国際社会はパキスタンの民主化を後押ししてきた。国際社会は、パキスタンの対外債務免除や反政府組織との和平推進の橋渡しをすることで、パキスタン国民の統治権による国家再建を目指すべきではないだろうか。少なくともそれは「自助努力による国家の発展」を途上国支援の柱にすえている日本政府の方針とも合致するはずである。

【参考資料】
How Much Did the U.S. Give Pakistan?
http://www.foxbusiness.com/markets/2011/05/11/did-pakistan/
Paris Club to mull allowing Pakistan to delay debt repayment.
http://www.thefreelibrary.com/Paris+Club+to+mull+allowing+Pakistan+to+delay+debt+repayment.-a080631340
Pakistan faces educational 'emergency', says government
http://www.bbc.co.uk/news/world-south-asia-12691844
BBC News - Britain criticises UN Pakistan flood response
http://www.bbc.co.uk/news/world-south-asia-13343378
Only third of appeal funds for Pakistan flood delivered, says UK report
http://twocircles.net/2011may10/only_third_appeal_funds_pakistan_flood_delivered_says_uk_report.html

2011年8月5日金曜日

でっと ばい Debt Bye! 第五号

▼[でっと ばい Debt Bye! 第5号をダウンロード!] (PDF)




でっとばい!5号
2011年8月発行

【アイルランド】
・仁義なき闘い・欧州編
・IMFは世界中で失敗を繰り返している
・アイルランドが知っておくべきこと

【パキスタン】
・パキスタンの債務危機
・女性たちのメーデー:ラホール

【世界社会フォーラム】
・ダカール世界社会フォーラムでの債務問題の討論

2011年8月4日木曜日

でっと ばい Debt Bye!特別号 世界債務 レポート 2011 南と北を蝕む債務危機、そしてもうひとつの道

▼[でっと ばい Debt Bye!特別号 世界債務 レポート 2011をダウンロード!](PDF)



不当な債務帳消し ニュースレター 「でっとばい DebtBye !」 特別号
世界債務 レポート 2011
南と北を蝕む債務危機、そしてもうひとつの道
地獄の沙汰も債務次第 グローバル・ノースからグローバル・サウスまで

エリック・トゥーサン 第三世界債務帳消し委員会(CADTM) 著
大倉純子 債務と貧困を考えるジュビリー九州 訳


目次
第1部:南の債務 ~ 危険な無関心     3
1.債務の絶対額と対 GDP 比。産業化先進国は途上国よりはるかに債務超過状態にある    4
2.途上国とって好ましい現状が、危機に無自覚になる危険な状況を生み出している     5
3.現在の好況は途上国のコントロールを超えた要因に依存しており、非常に脆弱である   6
4.代替的な方策     8

第2部:北の債務 ~ そしてもうひとつの道     14
1.過去数十年間の債務状況     15
2.欧州債務の債権者は主に欧州銀行     15
3.ギリシャ:まさに象徴的不公正債務     19
4.アイルランド危機:新自由主義の完全な失敗     24
5.人々が信じ込まされているのとは逆に、民間債務の方が公的債務よりはるかに大きい 26
6.ジョセフ・スティグリッツその他のエコノミストも、債務支払い停止の主張に賛意  26
7.これまでとは違う道     27
8.合意が形成されつつある     30
結論     32