2010年11月7日日曜日

「ユーロ危機によって、債務に耐え得るかどうかの議論が始まる」

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「ユーロ危機によって、債務に耐え得るかどうかの議論が始まる」
06 May 2010 by Oygunn Brynildsen and Nuria Molina

 現在、ヨーロッパ各国が直面している債務問題は、対外債務危機の原因と解決方法を模索する各国の政界に新たな議論を巻き起こしている。
 これまで非流動性や債務超過といった危機は主に途上国の問題であり、それらの国々は危機による社会的悪影響に長年苦しんできた。国家の再興には強制的な構造調整の実行が条件とされるため、途上国は非常に困難な状況に置かれている。大抵の場合、社会的支出や公共投資よりも貸し手の要求が優先されるために、貧困の克服や均衡ある発展が阻害されている。
 もはや、債務超過と再編の問題は途上国だけのものではない。この数ヶ月の間に、ヨーロッパではギリシャのみならず周辺のユーロ圏の国々も危機の間際に立たされている。ヨーロッパ連帯メカニズムを始動させるべきとの声に反して、ヨーロッパ各国政府は次に挙げるような重要な議論を先延ばしにし ている。

・現在、周辺諸国の債務を危機的レベルに引き上げている欧州通貨統合の根本的な欠陥、および一部の国の内政問題、世界的金融危機の影響にどのよう に対処するのか。
・これらの危機に対し、どのようにして公平かつ効果的な方法で対応するのか。

ユーロ圏:責任の痛み分けか、あるいは弱肉強食か
 ギリシャの悲劇は深刻な国内問題のみならず、巨大なマクロ経済の不均衡の結果でもある。
 Research on Money and Finance 誌の最新のレポート、「ユーロ圏危機:自分と隣人を貧しくする政策」では以下のように述べられている。「ユーロ圏はドイツの海外経済余剰に侵食され、周辺諸国の経常赤字によって賄われる地域になってきている。」
 ユーロ圏各国は通貨が独立しておらず、財政政策において選択肢が限られているために(安定協定に強く拘束されている)、経済調整の圧力を労働市場 に押し付けざるを得ない。
 レポートはこう続く。「この競争は再統一によって自国の労働者を過剰に搾取してきたドイツの勝利となっている。」
 残念ながら、ユーロ圏はグローバルな金融システムと同じ重大な欠陥を抱えている。両者とも黒字国寄りの姿勢を取っており、黒字国と赤字国の不平衡を補う様ないかなるシステムも考慮されていない。グローバルな金融システムについてのEurodadの最新レポート「積み立てのコスト」で述べられている様に、「こうした政治体制によって、赤字経済と黒字経済のグローバルな不均衡が増大し、世界は不安定になっている。」
 「また、このシステムは世界的な完全雇用という目標に対して不公平かつ矛盾したものであることを証明している」、と国連グローバル金融危機専門委 員会のメンバーの一人は述べる。
 簡単に言えば、グローバル金融システム(またはシステムとは言えないようなもの)とユーロ圏は両者とも「持続不可能なマクロ経済の不均衡に陥りやすく、賃金と労働よりもはるかに金融資産の価値を保護する立場に立っている」、とEurodadのレポートでは強調されている。こうして、最貧国と最も立場の弱い人々はこうしたシステムによって敗者に追いやられるのである。

債務処理手続きが欠けているがゆえのコスト
 危機発生から数ヶ月が過ぎても、ユーロ圏の根本的な問題については何も話し合われないままであり、ギリシャ危機を効果的かつ公正な方法で解決する 手段も見つかっていない。債務問題を処理する秩序だった方法がないために、問題のある国(更に重要なのは、その国における社会的立場の最も弱い人 々)、およびその債権者両方が大きな代償を支払っている。ドイツやその他のユーロ債権国がギリシャの救済策について議論している間にも時間だけは経過し、債務危機は悪化しているのだ。1100億ユーロの救済策が公的支出の大幅カットを条件としているにもかかわらず、エコノミスト達はギリシャがいずれは債務を再構成しなければならなくなると予測している。
 ピサーニ・フェリーとサピア(ブリュッセルに本部を置くシンクタンク・ブリューゲル在籍)はこう述べている。「例え現在検討されている大規模かつ持続的な財政調整が実行されたとしても、本当にこの国(ギリシャ)が債務を完全に返済できるかどうかを疑うに十分な理由がある。」そしてこう続 く、「つまり、ユーロ圏は自身のメンバーの一人の債務再構成をどのようにして処理すべきなのか、という問題だ。」
 欧州政策研究センターのダニエル・グロスとトマス・メイヤーは、「債務不履行の結果起こる必然的な混乱を最小限に留めるメカニズムを作り出すこと が極めて重要だ」と述べている。
 こうしたことは、これまで市民社会団体が途上国の債務危機問題の流れで主張してきたメカニズムと同じものである。
 企業や家族が破産する前に債務を再構成できるようにする企業・個人破産法(例えば、米連邦破産法第11章)と同様の手法が用いられるべきである。 破産を回避するためのこうした手法は、企業と債権者双方の利益に基づくだけでなく、社会の利益に基づくものである。
 国レベルにおいても、債務問題が弊害をもたらす段階に至る前に債務の再構成を認めることで、債権者および国民双方にかかる負担を軽減できるだろう。
 ピサーニ・フェリーとサピアは、「秩序正しい債務削減メカニズムが欠如しているからと言って、債務削減が実行できないとは限らない。それなのに、 各債権国が自国の銀行を後押しし、いつまでも債務完済を主張するために状況が悪化している」、と述べている。

公正な債務処理手続きのために
 Eurodadとそのメンバー団体は、公的債務問題を処理するためには破産手続きを定める必要があると主張してきた。手続きは独立したものでなけ ればならず(特に、IMFやパリ・クラブの影響下に置かれないように)、公平かつ包括的で、すべての債権者を平等に取り扱うものでなければならない。債務処理メカニズムは問題となっている債務の根本的な原因を査定し、債権者の責任を考慮することが必要だ。今後、債務危機を回避するには、債務者だけでなく、債権者にも無責任な行動に対して責任を課すことである
 もっと重要なことは、このような債務不履行の危険性が高い国(もしくは機関)に対して、社会の最も弱い立場の人々の権利と利益を守るために必要な手段を与えるメカニズムが必要である。こうした人々は国家が債務不履行に陥った場合、大抵最も深刻な被害を受けるのだ。
 今回の危機の経験を、公平・透明かつ独自の方法による対外債務問題を対処するグローバルなレベルでのメカニズムを設置するための議論をする機会に 変えていくことが必要である。

原文 http://www.eurodad.org/whatsnew/articles.aspx?id=4122
翻訳 高丸正人 (債務と貧困を考えるジュビリー九州)

欧州ATTACネットワークはギリシャ民衆と連帯する: 私たちはユーロの危機に対して真の解決策を要求する

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欧州ATTACネットワークはギリシャ民衆と連帯する: 私たちはユーロの危機に対して真の解決策を要求する


我々は民衆主体の解決策のために団結する。
つけは金融に払わせよう、民主主義を取り戻そう!


 欧州ATTACは、資本主義システムが引き起こした危機に対するつけの支払いを拒否するというギリシャ民衆、ならびに他の南欧諸国の民衆の公正な抵抗を歓迎し、支持する。我々は、EU加盟国政府がユーロ危機への対処として打ち出した誤った解決策を拒否する。

 ギリシャをはじめとする欧州諸国の政府は、大多数の民衆に現在の危機のつけを払わせようとしている。欧州委員会、EU加盟国、およびIMFは危機を利用して、公務員給与の大幅引き下げ、年金減額または支給凍結、団体交渉中止、公共支出の大幅削減など、過酷な緊縮財政措置を実施している。加盟国政府の戦略は、欧州社会モデルとして今なお存続しているものすべてを破壊するために、これらの計画を利用することである。欧州全域には、緊縮財政計画の導入以前ですら、不平等が拡大していた。ユーロ圏で最も不平等が広がっていたのは、ギリシャおよびポルトガルであった。

 5月11日に加盟国が採択した「ユーロ救済計画」はユーロ危機の根源に一切、手をつけるものではない。問題の解決ではなく、問題の先延ばし以外の何ものでもない。

ギリシャに対する不公正および非効率な緊縮財政計画

 投資家−納税者の預金によって救われ、前代未聞の公的財政赤字を作り出した末に−は、今、ユーロに反発する(ユーロ売り)ことで各国を攻撃している。民主的管理とは裏腹に、彼らは、見境のない自らの行動の代償を、社会的予算の大幅削減を通じて市民が支払うことを期待している。ギリシャの状況は、徹底的な金融市場規制が急務であることをふたたび示している。

 金融危機以前ですら、企業および特権的部門に有利な減税および優遇措置が、財政赤字を深刻化させていた。さらに、統一した経済および財政政策なしに単一通貨を有するというユーロ圏の明白な欠陥が、欧州諸国間の膨大な貿易不均衡を招いた。ドイツなど貿易黒字国の輸出戦略は、賃金と課税のダンピングに依拠していた。

 現在EUから要求されている過酷な緊縮財政策は、金持ちおよび投資家のみを利する解決策である。ギリシャ人の大多数は特別扱いされていない。彼らの賃金および社会的権利は欧州平均を大きく下回る。ギリシャはむしろ高い賃金を、より多くの公共社会政策を必要としている。

 EU加盟国政府は、いたるところで緊縮財政策の実施を予定している。彼らはすでにポルトガルとスペインで実施した。ギリシャならびに他のEU加盟国の経済状況をより一層悪化させながら、彼らの政策は社会的不平等と現在の危機を深刻化させるだけである。

「ユーロ救済策」で状況が悪化する

 欧州委員会は、ギリシャおよび財政危機にある他の加盟国に融資するために金融市場から資金調達する必要があるだろう。そこで、まず、銀行およびヘッジファンドから600億ユーロの「安定化資金」を調達する。その際、ユーロ圏政府が4,400億ユーロの追加保証を行なう。
 この救済計画は、この15年間そもそもユーロに内在していた、そして現在では金融危機によって増幅した根本問題を何一つ解決しない。それは、貿易不均衡、とりわけ、ドイツの貿易黒字の協調的削減を組織的に実施しない。またそれは、調和させた欧州税制を提供するものではなく、唯一の信頼できる連帯ツール(連帯のための手段)となるであろうような予算を提供するものでもない。膨大な債務を積み上げることによって、その結果、政府を常に金融市場−それは新たなEUローンの最初ならびに唯一の受益者である—に依存する状態にしておくことよって、債務危機を解決しようとするものである。これにより、欧州は、かつてないほどのデフレと不景気の時代に突入するであろう。
 欧州政府は依然として、投機の危機を「自然災害」として表現し、それは、何千億ものユーロ−それは、社会的支出および公共サービスの削減によって捻出される−を犠牲にすることによってのみ解決できるとしている。しかし、投機家は人という行為主体[human agent]であり、噴火した火山ではない。彼らが作り出す大災害は、我々が彼らにそれを許容すると、発生する。しかしながら、EU各国政府は、これらの大災害にきっぱりとストップをかけることをEUレベルで決定することに躊躇している。

私たちは以下のことを要求する:

1. 社会的利益を破壊させない、不平等を拡大させない危機からの脱却を提供するギリシャへの真の連帯計画を実施すること。そして、それは、危機で儲ける者たち、および金融活動収益に対する課税によって資金提供されること。

2. ユーロ導入国が欧州中央銀行(ECB)から融資を受ける場合、金利を銀行と同一にし、総じて、ユーロ圏が真に進歩的な金融政策を採用できるように、ECBを民主的および政治的に管理すること。

3. すべての金融取引への課税、CDS(クレジット・デフォルト・スワップ)の禁止、資本移動の管理の回復、ギリシャをはじめとする各地域において納税忌避および脱税を阻止する措置の実施、欧州のタックスヘイブンの禁止、ならびに総じて言うなら、「大きすぎて破綻させられない」と判断された銀行を社会化することを通じて、金融市場を全体的規制および管理すること。

4. 対外貿易不均衡を調和的に削減すること、ならびに、社会的ダンピングを回避するために欧州全体で最低賃金を実施するメカニズムの導入をなどの調和的な賃金政策を実施すること。

5.ユーロ圏を再定義し、経済的および社会的連帯の空間を作り出すために適切なEU予算および上昇課税[upwards tax]の実施など、 ユーロ圏およびEU全域で共通の経済および社会政策を実施すること。

6. 欧州の問題にIMFを介入させないこと、ならびにIMFが、融資を受ける国に課す緊縮財政策を拒否すること。


 私たちはEUの市民社会に、自らの政府に対してこれらの提案を推進するよう、圧力をかけることを呼びかける。私たちは、ナショナリストまたはレイシストのアプローチならびに自国の身勝手さに依拠した議論または提案を拒否することを、ともに確認しなければならない。私たちは、根本的原因に取組む解決策、ならびにこれらのシステムから利益を得て、危機を引き起こした者たちにつけを払わせる解決策をともに推進させなければならない。
 私たちの提案は、差し迫る危機の影響に対処し、ギリシャおよび私たち自身の国の大多数の民衆が、彼らには責任のない危機に対して、確実にそのつけを払わなくても済むようにするための必要な緊急措置であるにすぎない。私たちは長期的には、オルタナティブな金融システムを目指さなければならない。


Attac Austria, Attac Catalonia,
Attac Flanders, Attac France,
Attac Germany,Attac Greece,
Attac Hungary, Attac Italia,
Attac Poland, Attac Portugal,
Attac Spain, Attac Wallowia


原文 http://www.attac.org/en/node/1846
翻訳 秋本陽子 ATTAC Japan(首都圏)

2010年11月4日木曜日

「ギリシャ 1つの悲劇と2つの脚本」 2010年7月17日 ワルデン・ベリョ(フィリピン下院議員)

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「ギリシャ 1つの悲劇と2つの脚本」
 2010年7月17日 ワルデン・ベリョ(フィリピン下院議員)

 アテネのカフェには人があふれ、今も観光客の群れはパルテノン神殿を訪れ、伝説をたたえたエーゲ海の島めぐりに繰り出す。しかし、夏の装いの下には、混乱と怒りと絶望が満ちている。この国はこの数十年で最悪の経済危機に落ち込んでしまった。
 世界のメディアはギリシャあるいは「小ギリシャ」を世界金融危機の第2段階の震源地とみなしている。第1段階の「グラウンド・ゼロ」がウォール街であったように。
 しかし、この2つのエピソードの語られ方には興味深い違いがある。

矛盾する2つの物語
 規制を解かれた金融機関の活動が、複雑きわまる金融証券を発明し、魔法のように儲けを生み出し、その結末としてウォールストリートの崩壊をもたらし、最後には世界金融危機へと変身した。
 ところが、ギリシャの場合、物語はこのように語られる:この国は財力に見合わない福祉国家を建設するために返済不能なほどの債務を積み上げてきた。今やこの浪費家はベルト締め直す必要がある。ブリュッセル[EU]とベルリンと銀行家たちは、不機嫌そうなそぶりをして、この地中海の快楽主義者たちに苦行を与えるピュリタンである。この者たちは収入以上の暮らしをし、2004年に莫大な費用をかけてオリンピックを開催するなどの虚栄の罪を犯したのだ。
この苦行はEUとIMFの緊急支援計画という形で与えられる。それは付加価値税の23%引き上げ、定年の65歳への引き上げ、年金と公務員賃金の大幅削減を行うと、雇用安定のための措置の廃止を伴う。これらの政策の表向きの目的は、福祉国家を抜本的にスリム化し、甘やかされてきたギリシア人たちが収入に見合った生活をするように導くことである。
 「福祉国家」の物語はいくつかの断片的な真実を含んでいるが、根本的な欠点がある。ギリシャの危機は、基本的には、ウォールストリートの崩壊をもたらしたのと同じ原因から起こっている。つまり、金融資本が無分別に大量の信用を提供することで利益を得ようと猛進してきたことである。ギリシャ危機はカルメン・ラインハルトとケネス・ロゴフの著書「This Time is Different: Eight Centuries of Financial Folly(これまでとは違う:8世紀にわたる金融の愚行)」で追跡されているパターンと一致している。猛烈な投機的融資の一時期のあとには、容赦なく国債や政府保証債(ソブリン債)のデフォルト(債務不履行)またはそれに近い危機が起こる。1980年代初めの第三世界の債務危機や1990年代末のアジア金融危機と同様に、ギリシャ、スペイン、ポルトガルをはじめヨーロッパ各国で起こっているいわゆるソブリン債の問題は、基本的には[資金の]供給側の問題によって起こった危機であり、需要側の問題ではない。
 ヨーロッパの銀行は、融資による利益を増やすために、現在ヨーロッパで最も深刻な問題を抱えているアイルランド、ギリシャ、ベルギー、ポルトガル、スペインに2.5兆ドル(推定)を注ぎこんだ。ドイツとフランスの銀行がギリシャの4000億ドルの債務の70%を保有している。ドイツの銀行は米国の金融機関から大量のサブプライム証券を購入していたが、同じ無分別さでギリシャ政府債を購入していた。国際決済銀行によるとフランスの銀行はギリシャへの融資を23%増やし、スペイン、ポルトガルに対しても融資をそれぞれ11%、26%増やした。
 興奮に包まれたギリシャの金融の舞台に登場した役者はヨーロッパの金融機関だけではない。ウォールストリートの大物、ゴールドマンサックスはギリシャの金融当局に対して、 金融派生商品(デリバティブ)を使ってギリシャの巨大な負債を隠す方法を教えた。ギリシャへの融資を増やすことを検討している銀行家に対して国家財政の状態を粉飾するためである。次に、この同じ銀行が、ギリシャがデフォルトに陥ることに期待して「クレジット・デフォルト・スワップ(CDS)」と呼ばれるデリバティブに関与した。その結果、ギリシャ政府が銀行から借り入れるためのコストは上がったが、銀行は大きな利益を得た[1]
 グローバル金融によってもたらされた危機というものがあるとすれば、ギリシャこそまさにその真っ只中にある。

物語の改ざん
 ギリシャについて語られる物語が、銀行や金融投資家の無責任な行動の物語ではなく、収入以上の生活をする人たちへの戒めの説話にすり替えられたのは、主に2つの理由による。
 第1に、金融機関が危機についての叙述を自分たちの目的に役立つように、うまく改ざんしたことである。大銀行は今や、サブプライム債券を抱え込むことによって劣化した貸借対照表のひどい状態を深刻に憂慮しており、貸し出しを広げすぎたことを認識しつつある。彼らが貸借対照表の立て直しのために用いている主要な方法は、債務者を人質に使って新規の資金を獲得することである。この戦略の中心として、銀行は公的機関がもう一度、危機の最初の段階で行ったのと同様に、今度は救済基金と低金利での資金供給という形で彼らを救済するように圧力をかけている。
 ユーロ圏の主要国の政府はギリシャや他の重債務国がデフォルトに陥るのを許容しないということを銀行は確信していた。そのようなことはユーロの崩壊につながるからである。
 銀行は、市場でのギリシャの評価が下がりギリシャ政府の借入コストが高くなればユーロ 圏の政府は救済策を講じるということを知っていた。救済策の大部分は、自国のギリシャへの債権を回収するために使われる。ユーロ圏の主要国の政府とIMFによってまとめられ、ギリシャ救済計画として宣伝されている1100億ユーロの救済策の大部分は、銀行を自分たちの無責任で野放図な過剰融資の結果から救済するために使われるだろう。
 銀行と国際金融機関は、1980年代の第3世界の債務危機の際に発展途上国に対して、また1990年代のアジア金融危機の際にタイとインドネシアに対して「信頼性のゲーム」をしかけたが、この使い古されたゲームがそのまま再現された。「北」の銀行や投機筋による猛烈な融資のあとに、今回と同じ緊縮政策(当時は「構造調整計画」と呼ばれていた)が導入された。同じシナリオが同じように演じられた。「収入以上の生活をしていた」という言い方で、犠牲にされた人たちに責任が転嫁された。政府機関は現金の先渡しによって金融機関を救済した。そして人々には、その現在および将来の収入の多くの部分を融資機関への支払いに充てることを確約させることによって、債務の完済という途方もない負担を押し付けた。
政府機関がスペイン、ポルトガル、アイルランドに過剰融資している銀行を救済するために、同様の巨額の救済策を準備していることは間違いない。

責任転嫁
 ギリシャや他の重債務国の場合に「収入以上の生活をする人たち」についての説話が持ち出されるもう1つの理由は、世界経済危機が始まってから市民や政府の間で強まっている金融規制強化への圧力をかわすことである。銀行はケーキを食べたあとにするはずだった宿題をしなかった。彼らは危機の最初の段階で政府からの救済基金を確保したが、政府がその条件として国民に約束した金融規制の強化を受け入れなかった。
 金融危機の最初の段階で、米国、中国からギリシャに至るまで各国の政府は、大規模な景気刺激策によって実体経済の崩壊を食い止めようとした。銀行や金融機関は、この大規模な財政支出にスポットライトを移動し、あたかも世界経済の主要な問題が規制のない金融活動ではないように描く物語を広めることによって、厳しい規制の導入を未然に阻止しようとしている。
 しかし、これは危険な火遊びである。すでにノーベル賞受賞者のポール・クルーグマンや他の人たちが警告しているように、もしこの物語が思惑通りに展開され、新しい経済刺激策も厳しい銀行規制も導入されなければ、全面的な恐慌に至らないまでも、非常に深刻な不況が起こるだろう。残念ながら、最近のトロントでのG20会合が示しているように、ヨーロッパと米国の政府は、目先の利益を最優先する銀行が設定したアジェンダ(課題)に追随している。彼らは国家の積極的介入が根本的な問題であると主張する懲りない新自由主義イデオローグたちの支持を受けている。これらのイデオローグたちは、深刻な不況あるいは恐慌すら、経済が安定を回復するための自然なプロセスであり、経済の崩壊を回避するためのケインズ主義的な財政支出は、この必然的なプロセスを遅らせるだけだと考えている。

抵抗:流れを変えることはできるのか?
 ギリシア人はこのすべてを黙って見ているわけではない。7月8日に、ギリシャ議会でのEU・IMF協定の批准に対して大規模なデモが行われた。その前にも、これよりはるかに大規模なデモが行われている。5月5日にアテネで40万人がデモに参加した。これは1974年に軍事独裁政権が倒れて以降の最大のデモだった。しかし、街頭デモがEU・IMFのプログラムの実施に伴う大規模な社会的災禍を回避するためにできることはごく限られているようだ。2010年に経済は4%縮小すると想定されている。議会内の左派連合シナスピスモスのアレクシス・チプラス委員長によると、この2年間に失業率は15%から20%に上がり、若者の失業率は30%に達すると予想される。
 貧困の問題について言えば、最近のカパ・リサーチとロンドン・スクール・オブ・エコノミクスの共同研究によると、現在の危機が始まる前でさえ、ギリシャの1100万人の人口のうち3分の1が貧困ラインに近い状態で生活していた。このような「国内の第3世界」を生み出しているプロセスは、EU・IMFの構造調整プログラムによって加速されるだろう。
 皮肉なことに、この構造調整はジョージ・パパンドレウが率いる「社会主義政権」によっ て推進されている。彼は昨年10月に、それまでの保守政権の腐敗とその経済政策の悪影響と決別することを期待する票を集めて選挙に勝利したのである。パパンドレウの党PASOK(全ギリシャ社会主義運動)の中でさえEU・IMFの計画に対する抵抗があることを、党のポーリーナ・ラムサ国際部長は認めている。しかし、党の国会議員団の間では、かつてマーガレット・サッチャーが言った有名な格言、TINA(「ほかに方法がない」)が圧倒的多数の感覚となっている。

従順の代償
 EU・IMFの計画がもたらす荒廃を前に、ギリシアではデフォルトの脅しを使うという戦略や債務の一方的な大幅削減が話題になることがますます多くなっている。チプラス委員長は、そのような方法をポルトガル、スペインなどの重債務国と連携して導入することも考えられると言う。この点についてはアルゼンチンをモデルにすることができるかも知れない。アルゼンチンは2003年に、債権者に対して1ドルにつき25セントのみを返済するという大胆な債務削減を行った。アルゼンチンは債務削減に成功しただけでなく、これまでなら債務返済のために国外へ流出していた資金を国内経済へ還流することができ、2003年から2008年の平均10%の経済成長が可能になった。
 確かに「アルゼンチン方式」には多くのリスクがある。しかし、IMFに従順に従ったらどうなるかは、IMFの構造調整計画に従った国の記録を調べれば痛々しいほど明白である。
 フィリピンは、毎年の国家予算の25〜30%以上を外国の債権者への支払いに優先的に充当することによって、1980年代半ばに10年に及ぶ停滞を経験し、その後も回復していない。その結果、継続的に貧困状態にある人の割合が30%を超えている。メキシコは過酷な構造調整政策によって締め付けられ、20年に及ぶ継続的な経済危機に追い込まれ、その1つの結果として麻薬取引が広がり、国家の機能が脅かされるにいたている。タイの現在の階級間戦争と形容される状態も、1つの背景には10年前にこの国に導入されたIMFの緊縮政策による経済的打撃の政治的影響がある。
 ギリシャに対するEUとIMFの構造調整計画は、危機の真只中にある金融資本主義にとって、もはや南と北の違いは大きな問題ではないことを示している。皮肉好きの人はギリシャに「第3世界へようこそ」と言うだろう。
 しかし、皮肉を言っている時ではない。今こそ、グローバルな連帯のための決定的な瞬間である。私たちはみな、この瞬間を共有しているのだ。


 
訳者注01: CDSとは、保証料を支払っておけばデフォルトした場合に損失金額を保証されるという契約。国債を持っていなくても、CDS契約をしておけば、国債の額面価額と時価(デフォルトによって二束三文となっている)の差額が手に入る。相沢幸悦、中沢浩志「2012年、世界恐慌」(朝日新書)p155より

原文 http://www.zcommunications.org/greece-same-tragedy-different-scripts-by-walden-bello
翻訳 喜多幡佳秀 (ATTAC関西グループ)