2009年9月30日水曜日

影響下のパキスタン

2009年7月7日

CADTMパキスタンのスポークスパーソン・アブドゥール・カリークと、「女性労働者ヘルプライン」(http://www.wwhl.org.pk/)の事務局長を務めるブシュラ・カリークが送ってきた一連の文書を元に、パキスタンの政治、経済、社会状況を俯瞰してみよう。

IMFが経済危機のさなかに様々な条件を強要

約1年前の2008年1月、パキスタンは債務不履行の瀬戸際に立たされていた。財政評論家は、これはパキスタンが米国主導のテロとの闘いに協力した当然の結果だと分析している。のっぴきならなくなったパキスタンはとうとうIMFのドアを叩いた。そして国内の多くの反対にも関わらず、政府は最終的に76億ドルのスタンドバイ融資(SBA)契約を08年11月IMFと交わした。その間、米国もまたパキスタンとアフガニスタンの共通経済パッケージを作り上げる傍ら、この二国を地域の新安全保障戦略策定に巻き込んだ。しかし、米政権は今後数年感に渡る75ドルに及ぶ民生援助の公約は、パキスタンがアル・カイダその他の過激集団を根絶やしする努力を示さない限り実現しないと警告している。

アブドゥール・カリークは様々なパートナーによる最近の「援助」の約束とIMF融資に付随する不人気な条件についてコメントしている。IMFが防衛支出や軍事予算の削減を融資の条件として要求していないことに注意を払う必要がある・・・。Pakistan is not out of the woods(http://www.cadtm.org/spip.php?article4368)参照

パキスタンが農地の私有化を開始

パキスタンの政治的不安定のレベルとテロとの闘いの進捗を心配する西側の一般投資家と違い、サウジアラビアとアラブ首長国連邦(UAE)はパキスタンでのプロジェクト着手に全く躊躇しない。アラブ諸国は農業地帯の危うくなりかけた水資源を確保するためにパキスタンでのアグロ企業経営を急ピッチで進めている。連邦政府は、アラブの王族達に100万エーカーの農地を提供し、新しい企業封建制に国を明け渡そうとしている。

アブドゥール・カリークは、「Pakistan starts privatisation of agriculture lands」(http://www.cadtm.org/spip.php?article4392)と題する記事の中で、このアグロビジネスがパキスタンに及ぼしている劇的な影響と、国内ならびに地球レベルでの「水獲得競争」への憂慮を伝えている。

女性が第一の被害者

スワト谷(この二年足らずの間で、タリバンに対して三回の軍事行動が行われている地域)の危機が深まるに連れて、ますます多くの家族ー150万人以上ーが移転を余儀なくされ、マルダン、スワビ、ペシャワール、その他のパクトゥンカワの地域に流れ込んでいる。ブルシャ・カリークは最近スワトから逃げ出した人たちのためにマルダンに作られれた三カ所のキャンプを訪問し、悲惨な生活状況ー特に女性にとって過酷であるーを目撃した。Pakistan. Women voices from inside IDPs camps.(http://www.cadtm.org/spip.php?article4424)参照

この紛争の第一の被害者は女性である。彼女たちは激しく押し寄せる資本主義的な家父長制モデルの波にも苦しんでいる。5月1日、主にインフォーマルセクターで働く500人の女性(インフォーマルセクターは最大限搾取され、虐げられている社会階層である。200万人以上の女性が従事していると言われる)が正当な権利を求めてデモをした。他の様々な要求に加え、彼女達はインフォーマルセクターの労働者への労働法の適用と自分たちの社快適保護政策を求めた。女性労働者ヘルプラインの事務局長であるブルシャ・カリークはデモの先頭を歩き、このデモの様子を生き生きと伝えている。Pakistan: Women workers vow to continue struggle for rights.( http://www.cadtm.org/spip.php?article4374)参照

CADTMは「パキスタンは危機に立ち向かうため直ちに債務返済を停止すべきだ」と主張する

約1年前の2008年1月、パキスタンは債務不履行の瀬戸際に立たされていた。外貨保有高は40億ドルを割り、毎週2億5千万ドルから3億3千万ドルの速度で急速に減っていった。これは毎月の輸入額に匹敵する額である。パキスタンの国家債務は450億ドルに上る一方で、パキスタンルピーは23%も下落しており、貿易赤字は危険なほどに拡大していた。のっぴきならなくなったパキスタンは「解決策」としてとうとうIMFのドアを叩いた。そして国内の多くの強力な反対にも関わらず、政府は最終的に76億ドルのスタンドバイ融資(SBA)契約を08年11月IMFと交わした。

しかし、最後の手段の経済呼び水策の後でも世界経済はスタグネーションに深くはまり込んだままそこからから脱していない。もし今の危機がますます多くの国々を借金地獄に堕とすようなものなら、この「解決策」によって、アシフ・アリ・ザルダリ率いるPPP(パキスタン人民党)政権は、必然的に現在の袋小路状況を作り出した同じ処方箋をさらに(それが間違っていても)用いざるを得なくなる。

スタンドバイ契約は、例えば、燃料や電気への補助金の廃止、所得税や農業税の非課税枠の廃止、より一層の民営化、社会支出のより一層の削減を要求している。IMFが削減を強要しないのは軍事支出だけだ・・。パキスタンは事業民営化の義務を完全に果たした。何百万もののうちを売り渡し、燃料補助金を廃止し、電気料金を値上げした。全ては民衆の激しい抵抗を呼び起こした。予算赤字を解消するため、政府は約125の公的セクター開発プロジェクトを中止し(注1)、432を延期した。高等教育支出は73%減らされ、不測を補うための市民の負担は大変なものになるだろう。

過去30年に渡り世界規模で押し付けられた債務地獄と新自由主義政策の実施は、人間開発の面からいうととんでもない失敗だった。これらは、その被害者の利益を擁護しながら財政危機に取り組む、真の政治的妥当性という意味では正反対の政策である。

CADTMはパキスタン政府に呼びかける。民衆が人間として根源的に必要とするものを最優先に守るために、IMFの破滅的な解決策に従うのをやめ、債務ー「汚い」債務でかつ非常に不道徳ーの一方的返済停止といった緊急の措置をとるべきである。

前ペルベス・ムシャラフ将軍の政権は、この地域に置ける米国の戦略的同盟国であり、特に9/11以降顕著であった。主な債権者はためらいなくパキスタンの独裁政権が同盟国としての義務を果たすに必要な資金を融資した。2001年秋、米国はアフガニスタンでの戦争遂行の強力をパキスタンに申し出た。ムシャラフは米軍とその同盟軍がパキスタンを自分たちの後衛基地とすることに同意し、その代わり、パキスタン債務の大幅削減を得ようとした。2001年12月、パリクラブに集まった富裕国はすぐさまこの削減に同意した。その後もムシャラフ政権は世銀やその他の大国から積極的に援助を受けてパキスタンを債務漬けにしまくった。この融資に正当性はない。

これは将軍の独裁政権を強化しただけであり、パキスタンの民衆の生活条件を少しも向上させなかった・・・。この独裁政権によって交わされた債務契約は、それゆえ「汚い(odious)」なものである。CADTMはムシャラフに融資した債権者は、この事実を十分に承知の上だったと断言する。このような状況下で、パキスタン民主が将来、ムシャラフにより作られたこの「汚い」債務の返済を強要されることを認めることはできない。このような事情の元では、簡潔な債務の全帳消しは過大な要求ではない。

加えて、貧困との闘い、成長する宗教原理主義との戦いは、小農民、労働者階級、女性が抱える社快適、政治的、経済的分野に置ける根本的な問題を解決しない限り勝利はあり得ない。

・ CADTMは以下の要求を支持する。根本的な農地改革政策。武装集団(「武装農場」「軍事福祉トラスト」「プンジャブ種子会社」等)の手に置かれている土地の再配分。これらの集団は小農民とその家族が一世紀以上にも渡って耕してきた非常に肥沃な3万ヘクタールにも及ぶ土地を支配下に置いている。社会支出をふやすための軍事予算の大幅削減。

・ CADTMはパキスタンならびに全ての南の国々に呼びかける。「汚い債務」を負わせることで押し付けられた新自由主義のロジックに反対し、人権と環境を根本的に重視する全く別の経済ロジックを構築するべきである。「汚い債務」は即座に無効にすべきである。CADTMは、マイノリティや女性を尊重する新しい非宗教的な憲法立案のための会議の招集を含む、全面的な法/憲法改正政策を支持する。

・ CADTMは米軍とNATOによるアフガニスタン占領の終了ならびに地球上の他の地域からの撤退を要求する

・ CADTMは新自由主義政策の遂行に反対し、外国軍事勢力の帰還を求める民衆の運動を支持する。CADTMは宗教原理主義に反対する社会的/政治的闘いを支持する。CADTMは女性の解放のための彼女達の闘いを支持する。

注1  The budgetary cut for these programs is currently estimated at 100 billion Pakistani rupees.

原文 http://www.cadtm.org/spip.php?article4550
翻訳 大倉純子(債務と貧困を考えるジュビリー九州)

2009年9月27日日曜日

『でっと ばい Debt Bye!』 第二号 配布を再開しました。

 一時、不具合のためダウンロードを停止していた『でっと ばい Debt Bye!』 第二号 配布を再開しました。

[でっと ばい Debt Bye! 第二号をダウンロード!] (PDF 7.2メガバイト)

2009年9月25日金曜日

でっと ばい Debt Bye! 第二号

[でっと ばい Debt Bye! 第二号をダウンロード!] (PDF 7.2メガバイト)

Debtばい! 第二号

 ※"でっと ばい Debt Bye!"は債務帳消し問題を扱うニューズレターです。自由にダウンロードしてご利用いただけます。




▼第二号の内容
・巻頭言…のようなもの
・影響下のパキスタン
・コレア大統領、不当な債務の調停案を作成
・新たなジンバブエ債務帳消しを
・世界の債務運動からの提言
・再び Illegitimate Debt について[下]


▼巻頭言…のようなもの
★ぜんぜん解決していない債務問題

 ドイツのジュビリー運動”Erlassjahr”が、6月に「新たな債務危機」と題する調査結果を発表しました。それによると1998年のHIPC(重債務貧困国)イニシアティブ、2005年のMDRI (多国間債務救済イニシアティブ)で「債務救済済み」とされた24カ国(うち20カ国がアフリカ、4カ国が中南米)の経済・債務状況を検証した結果、今回の金融危機以前の08年時点ですでに債務が持続不可能になりつつあったブルンジ、ブルキナファソなど12カ国に加えて、この金融危機によってカメルーン、マラウィ、マリなどが深刻な影響を受けています。またMDG(ミレニアム開発目標)が達成できそうな国は、ボリビア、エチオピア、モーリタニア、セネガル、ザンビアのわずか5カ国のみであるとも報告されています。モラレス大統領になってから社会支出を劇的に増やしたボリビアは、今のところ石油・ガス価格高騰の“貯金”で何とか乗り切れそうだけど、今後、気候変動による不測の支出増が続くとどうなるかわからないということです。そして、IMF、世銀の途上国の危機状況の審査には、気候変動による影響が十分に考慮に入れられていない、と批判しています。


★「北」の危機によるツケは支払わない

 気候変動も金融危機も貧しい国の人々の方が大きい被害を受けていますが、その責任の大半は豊かな国の経済産業活動とライフスタイルにあることは誰しも認めることでしょう。

 8月20日付フィナンシャル・タイムスは、干害と連立政権の機能不全によりケニアの飢餓人口が250万人から380万人へと約50%増加し、また水力発電を中心としているため深刻な電力不足が生じていると伝えています。

 12月にはコペンハーゲンで国連気候変動枠組み条約第15回締約国会議(COP15)が開かれますが、それに向けてマレーシアに本拠を置く第三世界ネットワークが中心になって「“気候変動債務”の概念を認め、支払え」という署名活動を始めました(署名サイト http://campaigns.item.org.uy/?q=en/node/254 )。北が作り出した気候変動により南が受けた被害額や適応にかかる費用は、北が南に債務を負っているのと同じだ、というわけです。北の責任を明確にして始めて、気候変動への真の取り組みを始められるというものです。これはジュビリーサウスやCADTMなどが主張してきたエコロジカル・デットと主張を同じくするものです。

 社会運動の側だけではなくアフリカ連合(AU)も、「気候変動対策にアフリカ諸国の声を反映させるには一致団結していく必要がある、コペンハーゲンでは毎年60億-200億ドルに上る気候変動対策の無償資金を”(北が作り出した気候変動で南が受ける被害の)補償”として北の国々に要求する方針を固めつつある」とIPSで報じられています。


★民主的で責任ある国際金融システムを

 9月には再度G20が開かれますが、多くの社会運動が、金融・経済危機も気候変動も一国一票でどの国も平等に参加できる国連が中心になるべきだと主張しています。しかし、G8を中心とする大国はできるだけ国連を無視し、G8-IMF/世銀路線で世界の政治経済を決めていこうとしています(そして途上国が必要とする資金もなるべく融資という形で貧しい人々が背負う形にしようとします)。なぜかマスコミもG8、G20には大騒ぎをするのに、国連の重要な(そしてより市民運動の意見にも耳を傾けた)決定や主張はあまり取り上げられません。

 債務問題の解決はすべてが債権者(IMF・世銀、G8、パリクラブ、大銀行など)の意向に握られ、債務危機が起こる原因である融資のあり方から根本的に問い直されることはありません。バルチャー(ハゲタカ)ファンドが最貧国の債務を入手し、不当に莫大な額の返済を要求するなどの”隙間”が生まれるのもそのせいです。

 民主的で責任ある開発資金調達(融資)システムの確立が早急に求められています。1982年の債務危機以降、国際的に債務帳消しの必要性が認識され不十分ながらも実行に移されるまで20年近い歳月がかかりました。今回、根本的解決策の必要性が認識され、実行に移されるまでどれくらい時間がかかるのでしょうか。それまでに人類は、地球環境は、待てるでしょうか?

 「でっと ばい Debt Bye!」編集委員会